無添加ラブ

もこ

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「ン……ああっ……ん」
「その声……堪んない。」
結局こうやってベッドの上で揺すぶられてる。あの後、裕一郎は返事をしない僕を抱き上げて、勝手に上がり込み、寝室のドアを開けてベッドに落とした。

裕一郎がキスをしてくる。もう、僕の身体は何度出したかわからないようなモノでベタベタになっていた。
「はぁっ、すげー、気持ちいい。またイッてもいい?」
言葉とともに腰の動きが激しさを増す。

「ンああああん……。」
「陽介……すげー好き。」
だから、リップサービスはいらないんだったら……。

どうして裕一郎を拒みきれないんだ?

どうしてコイツはこんなに強引なの?

どうして、こんなに気持ちがいいんだろう……。

あの人に会いたい。
会って「大きくなったな。」って言ってほし……。




「何泣いてんの?」
「泣いてない。」
目を自分の腕で覆い隠しながら、素っ気なく返事を返す。

「泣いてるって……ホラ。」
無理矢理腕を引き剥がされ、顔を覗き込まれた。目に裕一郎のキスが落ちてくる。

「陽介、どした? 気持ちよくなかった?」
「……。」
何も言えない。僕のこの気持ちは誰にも分からない。

「陽介? 俺たち付き合ってもいいと思うぞ? 他の奴らは切ってさ。俺が毎日満たしてあげるから。な?」
瞼に、頬に、唇に……何度も裕一郎のキスが落ちてきた。顔を何度も撫でられて……。

「うっ、うっ……。」
年下の男の言い分に何も言い返せない。遊んでる……裕一郎はそう思ってる。別に構わない、構わないはずなのに……。

けど、僕は遊んでいるわけじゃない。誰でもいいわけじゃないんだ。

「あの人に会いたい……。」
僕に覆い被さっている裕一郎の体が、ビクッと反応するのが分かった。顔を撫でていた手がそのまま止まる。
「あの人……?」

「僕が待っているのは一人だけ。裕一郎じゃない。15年前に会った人の面影を追ってるんだ。」
……涙が止まらない。この事を知っているのは「J」のマスターとしおりんだけ。裕一郎にも言うつもりはなかった。

「ゆ、裕一郎は似てた。……だから拒みきれないんだ。でも、でもあの時のオジサンじゃない。」
「……。」
裕一郎が無言になった。けれども逆に僕は言葉が止まらなくなっていた。

「その手のアザ……似てたんだ。ホクロも……。けど、裕一郎じゃない。」
涙がこめかみを伝ってシーツに落ちる。僕は何に絶望してるんだろう……。

「僕があの公園の、ブランコの所で会ったオジサンじゃないんだ。」
オジサンに会える可能性が殆どない事など、分かっていることなのに。

「そっか……。その人のこと好きなの?」
「……。」
裕一郎に聞かれても、好きなのかどうかなんて、もう分からない。でも、あの人のことを考えながら生活するのが僕の日常になっている。

「俺の入る余地はない?」
「……。」
分からない。ただ、これ以上進んでしまうのが僕には怖い。裕一郎を好きになって? そして? 裕一郎が離れてしまったら? ……僕には裕一郎との幸せが見えないんだ。

「……俺、帰るよ。」
不意に、裕一郎が起き上がった。無言で着替えを始める。

「陽介……その人と幸せに……なれるといいな。」
部屋のドアノブに手をかけた裕一郎が、こちらをチラリと見た。

パタン

部屋の扉が閉められた。僕はベッドで1人泣き続けた。何か重大なミスを犯したような気がしたけど、それが何なのか全然分からなかった。




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