無添加ラブ

もこ

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本屋の跡取り

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「ねぇ、告ったら?」
帰り支度を整えて、更衣室から出た後にしおりんとばったり会った。しおりんも帰るとこだ。僕は何だかイライラしていた。

「何よ、急に。」
一緒に階段を降りていく最中、立ち止まってこちらを見てくるしおりんは、当然訳がわからない顔をしていた。

「だから、なんで告らないの? って話。何だか見ててもどかしいんだ。」
「告って? それで? 後継に収まってくださいなんてお願いするの? やめてよ。私が告るっていうことは、そこまで考えないといけないことなの。わかる?」

「妹に継がせればいいじゃん。」
しおりんを壁際に追い込んで捲し立てる。しおりんとは3つ離れた妹、確か美織とかいう妹がいたはず……。昔聞いた情報だ。

「美織は……今度結婚するの。」
「はぁ?」
……言葉を失った。何それ? 後継問題は姉ちゃんに任せてとっとと結婚するって? それでしおりんは好きな奴に告白もできないわけ?

「旦那さんは?」
「大学の同級生。卒業後は福岡の実家の会社に就職するって。そして、美織は追いかけて……結婚するわ。」
僕には経験がない話。兄弟がいるといってもその関係は様々だ。思い通りにはいかないというのは、誰の人生でもあること、でも……。

「おい、何してるんだ?」
下から声がして2人一緒に顔を向けた。池谷さんが外回りから戻って階段を登ってくるところだった。自分たちの体勢にふと気づく。僕はしおりんを壁ドンする形になってた。

「何してると思います?」
横目で池谷さんを見ながら口を開く。
「…….。」
口を噤む池谷さんに益々イライラがつのった。

「僕が告白して……。」
ピクッと池谷さんの体が揺れた。目つきが鋭く僕を睨んでくる。バカだな。そんなに好きなら告ればいいじゃん。

「今、振られたばかり。続きは、しおりんから聞いて。」
しおりんから体を離して、池谷さんの脇をすり抜ける。後は振り返らなかった。上手くいくかどうかはあの2人次第だ。僕には関係ない。

「はぁぁあ、6年も友だちしてくれたのに。……しおりんを失うかもしれないな。」

外の冷たい空気が血が昇った顔に突き刺さった。今日の僕はいつもと違う。あんな風に2人を煽ろうなんて今まで思ってもいなかった。

外はクリスマスイルミネーションで華やかだ。駅前には巨大なツリーが設置されていて、これからの時間は一目見ようと訪れたカップルで賑わっているだろう。きっと生田くんも彼女と一緒に、2人で……。

「しおりん、上手くいくといいな。」
自分が出てきたビルのちょうど階段がある方を眺め、今日は家に帰ってテレビでも見ようと足を踏み出した。




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