ある時、ある場所で

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偽りない俺(悠)

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「ふうっ。…まだ夢みたいだな。」
俺は、真人のお母さんの「泊まっていけば?」という言葉に甘えて2階の和室の布団の中にいた。真人のお母さんは若々しい。20年前の面影はバッチリあった。さすが、人を相手に商売しているだけのことはある。

『真人、もう寝たかな?』
隣の部屋にいるはずの恋人に思いを飛ばす。…本当は、一緒のベッドで寝たい…。けれど、お母さんの手前俺たちは遠慮した。真人と付き合ってる事を真人自身が告白してくれたが(ここはとても重要だと思う。)まだ承諾は得ていない。明日は俺から話をして認めてもらう…。

『今日1日は長かったな…。洸一さんには感謝だ。』
時刻を確認するともう3時近い。少し寝ようと目を瞑りながら、今朝からの長かった1日を振り返っていた。



※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※

「奏君、伊那村君おはよう。伊那村君、ちょっといいかな?」
朝、経理部で机拭きをしていた所に杉崎課長がやってきた。

「いよいよだな。」
『?』
お茶を淹れてみんなの机に配っていた奏さんが、満面の笑顔で声をかけてきた。今日は生田さんは休みだ。俺は訳が分からないまま、後を奏さんにお願いして課長の後について部屋から出た。

「あの、どちらへ?」
「所長室。伊那村君は初めてだろう?案内するよ。」
所長?…社長?伯父さん?そういえば、この1年、ここで会ったことなかったな…。最初の研修で辞令を受け取った以来だ。…別にいいけど。

エレベーターで一階まで降りてきた。バックヤードを移動する。ここにはいくつかの商品の搬入口がある。もうすでに何台かのトラックが商品を荷台から下ろしていた。朝のバックヤードを見るのは初めてだ。横目で元気に働く人々を見ながら、俺たちは端までやって来た。

『関係者以外立ち入り禁止』
大きく書かれたドアを課長がシーリングキーで開け、中に入る。目の前がすぐ壁に見えたが、そこは左右に広がる細い通路で俺たちは左に移動した。

『鍵で開けるのか?社長室に行くのに?』
俺は不思議に思いながらも黙って課長の後に続いた。課長は、行き止まりに見えた壁に手を合わせ、奥の部屋へ入っていった。

『…手紋?』
後に続いて入ったそこは、エレベーターホールだった。ちょうど開いていたエレベーターに乗り込む。一か所にしか止まらないらしく、階の表示がなかった。

「ここは初めてだろ?」
動き出したエレベーターにバランスをとりながら、初めて課長が口を開いた。
「はい。あの、社長室ってこんな所にあるんですか?」
「所長室だよ。所長。ほら、俺たちの直属の上司だ。伊那村君はこの一年あまり関わりはなかったな…。下は主に開発部と技術部、企画営業部が占めてる。」

『?…所長…?開発部…?』
初めて聞く情報で何が何だか分からない。課長の話が終わると同時に、エレベーターの扉が開いた。




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