ある時、ある場所で

もこ

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ゆう…?(真人)

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「…でも…。大学に行って一年であんなに背が高くなったんですか?高校の時にはもっと細かったし、背も低かったですよね…?あ、俺よりはもちろん高かったけど…。」
次々と言葉が出てきた。どうしても俺の中では納得がいかない。…不自然過ぎる。

「うん、そうだよな。俺、大学の4年間でここまで伸びた。今まで真人が会ってきた『俺』は、全部24歳の俺。俺にとってはここ半年間の出来事なんだ。全部説明する。…説明させて?」
『…?…』
はっきり言って何を言われたのか分からなかった。ここ半年の出来事って…何だ…?無言で頷き、先を促した。

「これ…覚えてる?」
伊那村先輩がポケットから取り出したのは、高校の制服のボタンだった。
「これ…。」
そうだ。記憶の奥底に封印したもの…。初めて好きな男性(ひと)に告白して…振られて…。俺はまた無言で頷いた。

「俺はこれを見つけた時、初めて知ったんだ。真人を求めていたって。あの時、本当は振り返りたかったんだって…。こうやって追いかけたかったんだって…。」
座ったままの姿勢で伊那村先輩に抱きしめられた。ギュッと力強い腕が、その言葉が本当だと教えてくれる。身体の強張りが解けていくような気がした。自然とゆうの背中に手を回していた。

「…ゆう…。」
俺の言葉に頭にチュッとキスをすると、ゆうが体を離した。
「全部、説明するね。俺、去年からFO企画という所に勤めてる。ほら、あそこのショッピングモール「FOUR」を運営している会社。経理部で数字の打ち込みをしてる。でも……」
そこから話されたことは、全部信じられないような事ばかりだった。


ショッピングモールを運営している陰で、国からの助成を受けて密かな研究をしていること。
あそこが「時間と場所の特異点」であるということ。
この半年間、ゆうがいろんな年代に飛んでいたということ。
「伊那村悠」であることがわからないように、常に変装していたということ。
その中で俺に出会い、自分の気持ちが分かったということ…。


「俺、20年前の真人にも会ってた。」
「えっ!20年前!?」
俺が2歳の時…?全然記憶にない…。
「正確には20年と半年前。真人、オムツしてた。」
顔が熱くなる…オムツって…。

「お、俺だってよく分りましたね…?」
どうやったら、2歳にもなってなかった俺を判別できるんだ?
「その時には分からなかったんだ。でも、戻ってから…。…可愛かったよ。俺にチューしてくれた。」
「ち、ちゅーっ!?」
俺はオムツに次ぐ羞恥で、体が床下にズブズブと沈んでいくような気がした。ここに穴があったらいいのに…。穴に入って…埋まりたい…。

「…真人?」
突然、住居に続くドアが開いて…母さんが顔を出した。



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