ある時、ある場所で

もこ

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4回目〜2年前〜(悠)

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『……』
カバンを持つ手に力が入る。スーツ姿の男が真人の尻を撫で始めた。
「…やめろ…」
小さく呟く声は誰にも届かない。こんな明るい店の中で何をしてるんだ?…抵抗しない真人にも理不尽な怒りが湧いてくる。…俺のことを好きだったんじゃないのか?もう忘れた?…俺は忘れてない…。こうやって会いに来たのに…。

誰に対してか分からない怒りを抱えながら、店の中の2人から目が離せない。俺はどうしたらいい?目の前の道路を水しぶきを上げながら車が一台通って行った。

『!!』
スーツ姿の男が、真人の顔を両手で包み顔中にキスをしている。気持ち悪くて吐きそうだ…。もう見たくない…!踵を返そうとした時、ふと気づいた。

『真人の腕…』
恋人どうしなら相手の首に回してそうなところを、真人の腕はダラリと垂れ下がったままだった。

『合意…ではないのか?』
そう思ったと同時に、俺は店の入り口に駆け出していた。扉を開くと思ったより軽かったのか、凄い音がした。

ガン!チリチリチリン…。

「おいっ!何やってんだっ!!」
一目散に2人に向かい、スーツ姿の男の腕を掴んで後ろに捻った。
「いてててて…誰だっ!?……あれ?…ゆう?」
こちらに向けられた顔を見て、心臓が跳ねる。この顔…知ってる…!

「…龍也かっ!?」
間違いない。大学3年の夏に知り合った女の子、紗奈の彼氏…。一夏だったけど、妙に気が合って何度か3人で遊んだ。俺たちより2つ年上で、社会人だった。「大学に戻りてぇ」が口癖だった…。あれ…?紗奈とは去年結婚したんだよな?実家に葉書が届いてたぞ?

「どうしてここに?…あれ?地元ここだっけ?何でスーツ?髪の毛染めた?」
一瞬固まってたが、龍也が呑気な声に我に返った。龍也だったら話が早い。俺は腕を離した。
「お前は?…というより…だめだ。真人は俺のものだ。これ以上触れるな。」
横目で真人を見る。真人は自分の体に腕を回して震えていた。合意じゃなかったのは明らかだ。

「なあんでお前のものなんだよっ!誰が決めた?まこちゃんは何にも言ってなかったぞ?」
龍也は相変わらずだ…。誰かれ構わずに声をかける。でも、浮気者を装ってても紗奈に一途で、俺はそんな龍也を気に入っていた。まさか…男にもだなんて思ったことがなかった。

「約束したんだ。待ってるって…。なっ?そうだろ?待ってて……くれたよな?」
哀願するかのような言葉は、尻すぼみに口の中で消えていった。真人はこちらを見ない…。待ってて…は無理だったか。俺は龍也を再び睨みつけた。

「お前…東京に彼女いるだろ?いいのか?紗奈ちゃんにこれをバラされても。」
龍也への評価が一気に下がる。明るく勝気な紗奈なら、きっと龍也を殴り飛ばすぐらいはするだろう…。結婚してるのに…。ふと気づく。今は2年前…結婚前だ。

「い、いや…紗奈には…。」


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