ある時、ある場所で

もこ

文字の大きさ
上 下
71 / 118
4回目〜2年前〜(悠)

5

しおりを挟む
顔を洗って歯を磨く。髭剃りを当ててクリームを塗る。乾燥するこの季節には欠かせない。俺が大学生になってから、4つ歳の離れた姉がくれたもの。つけていたメガネを外してコンタクトを入れる。俺のメガネは部屋専用。無くともなんとかなるが、自分の部屋では必ず使う。コンタクトは毎日寝る前に外しているんだ。

「今日も…黒だな。」
カラーコンタクトはいくつか準備している。色素の薄い茶色の目がコンプレックスというのもある。今日は前回と変わらない黒髪に合うように、コンタクトも黒。髪を少し斜めに流して真面目君の出来上がり。
「こんなもんだろ。」
あの黒縁メガネをかければバッチリだ。洗面所から部屋に戻った。

カウンターに置いといたアイスコーヒーに牛乳を混ぜて一口飲む。6枚切りの食パンにかじりつき、着替えを始める。今日は少し厚めの生地で仕立ててあるワイシャツを新調した。アイロンいらず、形状記憶のタグが付いた優れもの。アイロンなんてかけないから、本当に重宝する。結構高かったが、3枚大人買いした。

「ハムあったな…。」
急に思い立って冷蔵庫からハムを取り出す。残り3枚…食べてしまおう。3枚丸ごと口に入れて、ネクタイに取り掛かる。
「……。」
気が変わってクローゼットに向かった。前回と同じネクタイとスーツを取り出す。できればすぐに俺のことを思い出してほしい。真人…思い出すかな?

2年前だと聞かされたのが5日前。2年前だろうが、8年前だろうが、会いに行こうと思った。遠くから眺めるだけでも…。8年前の中学生の真人を遠くから眺めるのも悪くない。スーツを着込んで身支度が終わった。

食パンの残りをコーヒー牛乳で流し込み、もう一度歯を磨く。荷物はビジネスバッグひとつだけ。下着と靴下…そして真人へのプレゼントが入ってる。

『!』
洸一さんに住所を教えてもらって部屋に戻った後、撮ってきた画像を見て驚いた。誕生日がもうすぐ。年末の30日だった。俺の次の任務は1月6日。何か送りたい衝動に駆られ、通販でネックレスを購入した。しかも2つも。お揃いでつけたい。

本当は郵便で送るつもりだったけど、今現在、真人がこの住所にいる確信がない。電話番号が分かればかけるけど…。でもなんて言って?5年前に待っててって言った「ゆう」だよって?…躊躇している間に誕生日が来てしまった。

年が明けて2年前だと聞いた時には心臓が跳ねた。自分で会って渡したい…。会えなくとも、受け取った時の顔は見てみたい。早く行きたい。…早く真人の元へ…。

「よし、行くか。」
コーヒーを飲んだコップをシンクに置いて水に浸し、もう一度荷物を確認してから部屋を後にした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

処理中です...