ある時、ある場所で

もこ

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3回目〜5年前〜(悠)

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カタカタカタカタ…4人分のテンキーを打ち込む音が無言のオフィスに響いている。今日は金曜日で小野寺さんが休み。俺の左隣にいる佐藤さんと、その奥の田中さん、そして、目の前の生田さんの4人だ。経理部の俺は、佐藤さんと組んで、2階のフロアから上げられる数字の打ち込みをしていた。課長はどこかに呼ばれて留守だ。しょっ中行ったり来たりを繰り返す。いつものことだ。

「んー、…コーヒー飲まない?」
隣の佐藤さんが大きく伸びをしてつぶやいた。
「あ、俺淹れますよ?」
席を立とうとしたところで、生田さんに止められる。
「もうすぐ昼休憩だし、その後にしませんか?…おい伊那村、今日はラーメン屋に付き合えよ。」

おっ!初めてのお誘い…。何だ?何か話があるな?4月から長いこと一緒に仕事してるが、サシで昼を摂るのは初めて。いつも小野寺さんと3人だった。小野寺さんが休みの日は、それぞれ別に休憩を取る。
「いいっス…いいですよ。」
返事をしてまた席に座った。




「俺味噌ラーメン。お前は?」
「同じもので。」
一階のレストラン街にあるラーメン屋に来ていた。12時を過ぎたばかりの店内はさほど混んではいない。通りかかった店員に注文をすると、生田さんが俺に向き直った。

「でさ、お前、今誰と付き合ってるんだ?」
きたっ!…何だ?最近は噂になるようなことしてないぞ?
「誰とも付き合ってませんよ。どうしてですか?」
実際、由香里と別れてからは誰とも付き合ってない。与志己とはあれからも、夕飯を3度ほど食べたが、それだけだ。

「やっぱり、部屋に連れ込んでただろ?この前、上のカフェに行った時、女の2人連れが大声で喋っていたぞ。あそこの居住スペース、まだ売り場にならないって。」
『アチャー、由香里だ。間違いない。』
額を押さえたい気分だったが、なんとか耐えた。

「それは変ですね?小野寺さん…じゃないですか?」
ここにいない人の所為にする。途端におしぼりが飛んできた。
「バーカ。あるはずないだろ。」
「なぜ?」
避けたおしぼりが床に落ちたのを拾いながら尋ねる。

「アイツは真面目だからな。部屋に連れ込んだりしないよ。それに外に出られるようになって、俺も小野寺もそんな必要がない。」
ま、そうだな…。当たり前だ。俺も外に出られたら、あそこに由香里を連れ込んだりしなかった。
「すみません。俺です…犯人。一回だけ連れ込みました。」

「やっぱりか…。」
生田さんが呆れ顔で呟いた時、ラーメンが運ばれてきた。しばらく無言でラーメンを啜る。
「生田さんは去年、連れ込みたくなったこと、ないんですか?」
怒られるのを覚悟していたが、無言で食べ進める生田さんにこちらから聞いてみたくなった。

「あるさ。何度も。でも、連れ込んではない。」
「我慢してた?」
「当たり前だろ?」
ま、そうだな。当たり前だ…。
「すみません。俺もこの先…我慢します。」



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