ある時、ある場所で

もこ

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2年前、「trois 」で(真人)

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『俺のもの…?』
俺は龍也の拘束が解けて震え始めた体を自分で抱きしめるように腕を回し、何とか止めようとしていた。しかし、訳の分からない怒りが沸々と湧いてくるのを感じていた。

『3年も音沙汰無しで…俺のもの…だって…?』
体に回していた腕に力が入る。もはや、怖くて震えているのか怒りで震えているのか分からない。

「なあんでお前のものなんだよっ!誰が決めた?まこちゃんは何にも言ってなかったぞ?」
「約束したんだ。待ってるって…。なっ?そうだろ?待ってて……くれたよな?」
「……」
裕次郎に縋るような表情で問いかけられるが、何も言えなかった。視線を床に落とす…。

「お前…東京に彼女いるだろ?いいのか?紗奈ちゃんにこれをバラされても。」
俺を見ていた視線を龍也に移して、裕次郎が強い口調で問いかけた。
「い、いや…紗奈には…。」
…紗奈?…明らかに狼狽た龍也にガッカリする。…龍也は付き合ってる子はいないって言ってた。俺に一目惚れしたんだって…。

「どうしてこの土地にいるんだ?」
裕次郎が畳み掛ける。
「ち、長期出張で…。あと1週間で東京に戻る。」
明らかに龍也は、紗奈という彼女にバレるのを嫌がっていた。

「じゃあ、もうこの店に来るな。バラされたくなかったら…。…キス以外、何もしてないだろうな?」
睨みつける裕次郎さんから離れるように後すざりしながら、龍也が、
「な、ない。ナイナイ。ないから。じゃ、真人くん、コーヒーごちそうさまっ!」
というと、急いで店を出て行った。



「……」
「……」

その場に立ったまま、沈黙が流れた。俺は目を上げる事なく床と裕次郎の革靴を見つめていた。スーツのズボンが濡れてる…。雨の中、歩き回ったのか…。

「真人…?」
裕次郎の足が動くのを見て、俺は後すざった。
「真人….会いたかった!」
飛びかかるようにしてきた裕次郎に抱きしめられる。スーツが濡れてて冷たい。裕次郎の香水の香り…記憶にある通り…あの頃と変わらない。本当に…裕次郎だ…。でも…。

「触るなっ!」
裕次郎の胸に両手を当てて思いっきり伸ばすと、少しよろけながら裕次郎が離れていった。
「真人…ごめん…。」

「3年だぞっ!3年!…どこをどう考えたら待ってたなんて思えるんだ?」
顔を上げて裕次郎の端正な顔を睨む。髪が少しだけ濡れてる…。あれ?メガネ…いつの間に外したんだ?
「真人…どうしても来れなかったんだ…。待ってて欲しかった。…俺の願望。…ただ…それだけ。」

俺を見つめる裕次郎の真剣な表情と言葉に、少しずつ心がほぐれていくのを感じていた。本当に…?待ってて欲しかった…?…いや、待ちたかったのは俺の方…。現実にしたかったのは俺…。夢だったのかもしれないと思いながらも、ずっとこの時を待っていた…。

そう気付いた途端に、涙が溢れてきた。



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