ある時、ある場所で

もこ

文字の大きさ
上 下
25 / 118
2回目〜1年前〜(悠)

2

しおりを挟む
「あ?…ああ。伊那村、伊那村悠。」
別に名前教えてもいいよな?このモールの中なら友だち作ってもいいんだから。機密事項さえ喋らなければ…。
「君は?なんて名前?」
改めて見ると、本当に女のような顔をしている。色白の肌。細い眉。大きな目。真っ赤な唇…。

「僕は…繁田(しげた)よしみと言います。」
繁田…。確か家具屋の名前が「SIGEDA」だったはず。やっぱり家具屋の親戚なんだろうな。よしみなんて名前も中性的だ…なんて言ったら失礼か。
「へぇ、よしみってどんな字?」
「与える志の己れで、与志己です。」
うん、漢字で見るとしっかり男だな。そんな事を考えながら話を繋げた。
「いい名前だね。」

「あ、あの…夕飯一緒にどうですか?」
不意打ちを食らって一瞬戸惑った。オイオイ、ついさっき知り合って今名前聞いたばかりだぞ?

「んー。」
ま、いいか。モールの中でなら行動は自由だ。友だち100人出来るかな、に挑戦だ。まずは一人目。
「いいよ。このモールの中でいい?」

「はいっ!」
女みたいな顔を薄く染めて、与志己が笑った。なかなか可愛いじゃん。
「どこにする?そういえば、シャワーはいいの?」
「高速で浴びて来ます!」
ちょっとだけ待っててください。そう言ってあっという間に脱さいだ服をロッカーに突っ込んで、シャワー室へ消えていった。俺も与志己の下半身に釘付けになった。

『…うそ…』
…初めて見た。全然「ない」男の体…。



シャワーを終えた与志己を伴って、「元」に夕飯を食べに来た。モールの中で唯一の酒を提供する店。でも、モールの閉店とともに店も閉まるから、長居はできない。職場の飲み会はいつもここと決まっていた。

「僕、ここは初めてなんです。」
カウンター席でもいいかという店員の案内に同意しながら暖簾をくぐる。与志己が傍で弾んだ声を上げた。
「あれ?年いくつ?成人は…してる?」
俺の問いに与志己が笑い声を上げた。
「フフフ、僕、これでも25ですよ。」

「何っ!?」
俺より年上?全然見えないぞっ!?反則だろ。…年齢不詳ってやつだ。
「悠さんはいくつですか?」
カウンター席に着くと、真面目な顔になって与志己が聞いて来た。俺は誕生日が6月で24歳になった。もう既に5か月近く過ぎてる。
「俺?幾つに見える?」
単純に幾つに見えるか興味があった。

「28ぐらいかな…。」
なぬっ!?アラサー?
「ちょっとだけショック。…教えてやんない。」
本当にショックだ。アラサーがブラウンベージュの髪色してるか?…してるのかも…。髪型変えるか…。色も変えて…。

「あれぇ?…伊那村?」
俺の左側に座る与志己の奥から、聞いたことのある声が聞こえた。与志己から2つ席が離れた所に2人連れの男が座っている。2人とも同じようなジーンズを履いてカジュアルな格好をしていた。奥に座って顔を覗かせている人物と、俺たちに背中を見せて顔だけ振り向かせた男に見覚えがあった。
「小野寺先輩!…と、洸一さん…?」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

処理中です...