ある時、ある場所で

もこ

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プロローグ(悠)

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「先輩!…伊那村先輩!」
卒業式が終わった。この学校に来るのは今日が最後。ようやく1人になって、クラスメイトが待つカラオケに向かって歩き出すと、後ろから声をかけられた。…男だ…ダレだ?部活動もしていなかった俺は、「先輩」と呼ばれるような男の後輩に心当たりがなかった。

「なに?」
振り返ってみると、あまり見たことのない一年生が目の前にいた。校章の色で学年が分かる。177cmの俺より10cmほど背が低い。俺も一年の頃はこのぐらいだったかな…。少し長めの黒髪をふんわりと持ち上げた髪型は、今の流行か?中々モテそうな奴だ。

「ちょっとお話したいことがあって…。少しお時間いただけますか?」
なんだ?カツアゲか?…のわけないか。こいつは真面目そうだ。俺とは真逆の…。

「いいよ。このままカラオケ行くとこだし。」
「こっちに…。」
校舎脇の人気のない場所に促されて、何だろうと疑問に思ったまま後をついて行った。

「あの、俺、先輩の事好きなんです。付き合ってもらえませんか?」
校舎脇で立ち止まり、向かい合うとすぐに告白された。雷に打たれたような衝撃が走った。コイツ…俺が好き?

「名前は…?」
まだ動揺が治らない。今まで何度もこんな告白を受けてきた。でも相手は全員女だ。…なんて言ったらいいか分からない。
「…まこと…」
まことが俯き、顔が見えなくなって少し冷静になれた。

「まこと…ごめんな…。」
…なんて言って断る?とりあえず、目の前にある頭に手を伸ばした。
「俺、男か女かなんて気にしちゃいないんだけどさ…」
まことが顔をあげた。…うん。まことに告白されても嫌じゃない。

「俺、追いかけたいタイプなんだよね。最近わかった。だから、今まで長続きしなかったんだ。」
今…分かった。今までは告白されて、何となく付き合ってた。告白されるのも彼女からなら別れを切り出されるのも彼女から…。自分から好きになった経験がない。もっても3ヶ月…。好きじゃないんだから続かないわな。俺、まことが羨ましいかも…。

「でも、ありがとう。…嬉しいよ。」
何となく…気がついたら頬にキスしてた。唇を離すとまことの目から涙が溢れてきた。綺麗な瞳…。吸い込まれそうなほど見つめてくる。
「泣かないで…。」
流れ落ちた涙を手で拭う。綺麗な肌をしている…。うん、俺、やっぱり男か女かなんて気にしてない。

「そうだ…これ貰って。要らなければ捨ててもいいから。」
右側のズボンのポケットに入れてたボタンを取り出し、まことの左手を捕まえて落とす。さっき腕のボタンを引っばられた拍子に一緒に飛んだもの。誰かにあげてきても良かったけど、何となくポケットに入れてた…。

「やっぱり…交換。じゃ、行くね。」
でも、まことの制服の袖口のボタンが取れそうにプラプラしているのを見て、気が変わった。衝動的にまことのボタンを引きちぎる。何となく恥ずかしくなって、すぐにまことに背を向けた。

歩きながら考える。まことのこともっと早く知っていれば…。あるいは…。振り返ってみたい気もするが、それではまことに失礼だ。……我慢して歩き続けた。



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