未来も過去も

もこ

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想いが溢れた

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「コウイチ…?こう君はコウイチって言うんですか!?」

俺は思わず声を張り上げていた。巌城さんが不思議そうな顔をした。
「ええ、洸一です。私の洸という文字と数字の一でこういち、って…小野寺さん…あれ?知らなかった?」

一瞬頭の中が真っ白になった。ここは7年前…。こう君は大学2年生。という事は二十歳…。じゃあ今は…27?

『……!!!!』

「いつも『洸』って呼んでたかもしれませんね。『洸一』なんて改めて言うのは稀かも。」

巌城さんが笑いながら言っている言葉は全然頭に入らなかった。今すぐ公園へ引き返したくてしょうがなかった。



巌城家を出ると、公園まで全速力で走った。早く…早く…!確認したい。…コウイチっ…!

コウイチは、公園の入り口近くのベンチに腰を下ろしていた。街灯の真下で、自販機で買ったのであろう缶コーヒーを両手で握りしめて前かがみになり地面を眺めていた。誰も居ない公園の中でコウイチの姿だけがポッカリと浮かび上がっている。


俺は、息を整えて深呼吸をしてから、ゆっくりとコウイチに近づいた。
「コウイチ、名前を言え。」
「は?」
物思いに耽っていたコウイチが、初めて俺の存在に気づき、びっくりした顔で立ち上がった。

「名前だっ!」
俺はコウイチの目の前まで行ってその整った顔を見上げた。
「コウイチ…。」
まだコウイチは、何言ってんだコイツ…って顔をしている。

「違うっ!フルネームっっ!」
コウイチが初めてハッとした表情をした。
「フルネーム…おし…えて…。」
俺は畳みかけて俯いた。涙が溢れてきて、限界だった。

「…巌…城…洸一…。」
俺は、その言葉を聞いた途端にコウイチの体にしがみついた。…言葉にならなかった…。コウイチはそんな俺の背中にそっと手を下ろした。
「…こう君!……やっぱり…!!」
涙が後から後から溢れてきて、コウイチの革ジャンや俺のメガネ、スーツを汚した。

「ごめん…おれ…こう君を傷つけた…。」
コウイチの腕がピクッと反応した…。だが、コウイチは何も言わなかった。俺は顔を上げてコウイチの目を見た。
「でも、だめだったんだ………好きだったんだ……コウイチのこと!」

「えっ…!?」
コウイチの目が見開いた。俺のクシャクシャな顔を見つめたかと思うと、ボソッと呟いた。
「…嘘だ…」
「本当だっ!」
俺は思わず叫んでいた。
「…本当…に?…」
コウイチは唖然とした表情で呟いた後、俺の背中が折れるかと思うほど強く抱きしめてきた。
「………小野寺…さ…んっ!」
その言い方は、今までに何度も聞いたこう君の言葉と重なった。コウイチの腕の中は、今までと変わらず、とても安心できた。

「コウイチ…好きだ。」
俺はもう一度コウイチに分からせるために告げると、コウイチの胸の中に顔を埋めた。



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