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田所という男
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「でも…、その男これからどうなるんスかね。」
しばらく数字を打ち込んでいたが、ポツリと生田が呟いた。
「戻す訳にはいかないだろう。リスクが高過ぎる。こっちの世界を少しでも見せてしまった事になるからな。」
生田と課長の会話にふと手を止めた。
『…戻す…訳…にはいかない?』
何のことだ?あの男がいるということ?…こっちの世界に?…ここに…?
「だから、顔認証で引っかからなかったんじゃないですか?こっちに来たから過去の記録が消えたとか……オイ、大丈夫か?」
生田の声に我に返る。生田は俺の方を見て驚いたような顔をしていた。
俺は、数字を入力しようと努力していたが、腕がどうしようもなく震えていた。パソコンの画面を凝視するが、何を打っていたのか、何を入力しようとしてたのか分からなくなった。震えを少しでも治めようと、力を入れれば入れるほどひどくなる。
「課長!!」
生田の声で、課長が何処かへ電話をかけ始めた。
「もしもし?経理部の杉崎です!小野寺君が…。はい。…はい。はい。…ではお待ちしています。」
肩を掴まれてハッとする。課長が近くまで来ていた。
「小野寺君、今日は帰れ。まだ無理だ。所長に連絡を入れたから…。…誰か迎えに来る。帰れ…。何か気晴らしでもしてこい。」
「でも、仕事が…。」
今日のような人員が足りない日に帰るのは気が引けた。
「どうにでもなるよ。所長命令だ…。帰りなさい。明日も金曜日で元々休みだったろ。2日間ゆっくりしてこい。」
課長の声はとても優しかった。
「すみません。…生田、ごめんな。」
「いいってことよ。ゆっくり休んで。」
右手を挙げてこたえた生田の声も、とても優しかった。
震える手で、パソコンの電源を落とし、帰り支度をする。スマホと財布だけ確かめていた所に、ノックも無く入り口のドアが開かれた。
「奏っ!」
3人同時に顔を上げる。
「「「コウイチ!(さん!)(君!)」」」
見事にみんなでハモった。
「いやあ、コウイチ君久しぶりだねー。所長に聞いた?」
「…ええ。」
コウイチはこちらをジッと見つめて歩いて来ながら、杉崎課長へ適当に返事をした。
「どうしてここにコウイチさんが?」
「…。」
生田の質問には答えなかった。
「ありがとう。」
俺はどんな事情や理由があろうとも、単純に嬉しかった。
しばらく数字を打ち込んでいたが、ポツリと生田が呟いた。
「戻す訳にはいかないだろう。リスクが高過ぎる。こっちの世界を少しでも見せてしまった事になるからな。」
生田と課長の会話にふと手を止めた。
『…戻す…訳…にはいかない?』
何のことだ?あの男がいるということ?…こっちの世界に?…ここに…?
「だから、顔認証で引っかからなかったんじゃないですか?こっちに来たから過去の記録が消えたとか……オイ、大丈夫か?」
生田の声に我に返る。生田は俺の方を見て驚いたような顔をしていた。
俺は、数字を入力しようと努力していたが、腕がどうしようもなく震えていた。パソコンの画面を凝視するが、何を打っていたのか、何を入力しようとしてたのか分からなくなった。震えを少しでも治めようと、力を入れれば入れるほどひどくなる。
「課長!!」
生田の声で、課長が何処かへ電話をかけ始めた。
「もしもし?経理部の杉崎です!小野寺君が…。はい。…はい。はい。…ではお待ちしています。」
肩を掴まれてハッとする。課長が近くまで来ていた。
「小野寺君、今日は帰れ。まだ無理だ。所長に連絡を入れたから…。…誰か迎えに来る。帰れ…。何か気晴らしでもしてこい。」
「でも、仕事が…。」
今日のような人員が足りない日に帰るのは気が引けた。
「どうにでもなるよ。所長命令だ…。帰りなさい。明日も金曜日で元々休みだったろ。2日間ゆっくりしてこい。」
課長の声はとても優しかった。
「すみません。…生田、ごめんな。」
「いいってことよ。ゆっくり休んで。」
右手を挙げてこたえた生田の声も、とても優しかった。
震える手で、パソコンの電源を落とし、帰り支度をする。スマホと財布だけ確かめていた所に、ノックも無く入り口のドアが開かれた。
「奏っ!」
3人同時に顔を上げる。
「「「コウイチ!(さん!)(君!)」」」
見事にみんなでハモった。
「いやあ、コウイチ君久しぶりだねー。所長に聞いた?」
「…ええ。」
コウイチはこちらをジッと見つめて歩いて来ながら、杉崎課長へ適当に返事をした。
「どうしてここにコウイチさんが?」
「…。」
生田の質問には答えなかった。
「ありがとう。」
俺はどんな事情や理由があろうとも、単純に嬉しかった。
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