未来も過去も ー番外編ー

もこ

文字の大きさ
上 下
42 / 45
やきもち

2

しおりを挟む
『美味しいっ!』
社会人になって1年間はモールにある居酒屋ばかり。学生の頃もこんなに落ち着いた雰囲気の飲み屋さんになんて来たことがない。とりあえずビールで乾杯しない所は初めてだ。いや、してもいいんだろうけど…。

「どうぞ。」
マスターが小さな皿に入れたナッツを出してくれた。
「最近、女性が増えたな。」
洸一が奥のテーブルに視線を送り、マスターに話しかけた。

「ええ。口コミで広がって。元々どなたにでも出会いの場を与えたいと思ってましたし…。でもお陰で出会いの場というより、カップルで来てくださる方の方が多くなりましたけどね。」

チリンチリン…

「いらっしゃいませ。」
ウインクしながらのマスターの言葉が終わるか終わらないかのうちに、入口のドアが開いた。マスターは笑顔を見せると、俺たちの1つ隣の席に誘導した。

「マスター、こんばんは。待ち合わせなの。もうすぐ来るはず。」
「美香さんですか?」
「ええ。そう。」
俺の1つ隣の席から、強い香水の香りが漂ってくる。あまり嗅いだことのない香り…。いい香りなのかもしれないけど、程度ってものがあるだろ…。

「何かお作りしますか?」
コップを磨いていた手を止めて、マスターが女性を見る。
「んー、もうちょっとだけ待っててもいいかしら?連絡取ってみるわ。」

「どうぞ。ごゆっくり。大丈夫ですよ。」
マスターが笑顔を見せながらコップに向き直ると、洸一が口を開いた。
「マスターはいつも磨いてるな。」

「ええ。グラスはそんなに高いものではないのですが。こうやって磨いてあげると高級感出るでしょう?」
「ああ。」
マスターが持ち上げた透明のコップは、照明を受けてキラキラ輝いた。

「昔働いていたレストランでは、ナプキンと同じ素材の布で磨いていたんですよ。タオルだと繊維が残ってしまいますから。手ぬぐいもダメですね。」
ナプキンと同じ素材!?紙ナプキンが出てくるレストランしか知らないんですけど…。そういえば、中学の頃のテーブルマナーで布のナプキン使ったかな?あれかな…?

「それは…?」
「これはマイクロファイバーです。本当に昔と比べたら便利になりました。」
グレーの布巾を掲げて見せる。マスターって何歳なんだろ。40とか…?長めの髪を後ろで1つに結び、前髪もオールバックにして固めている。一筋だけ垂れて来ている前髪の束がオシャレだ。俺たちの両親よりは断然若いけど、30代には見えない…かな?

「マイクロファイバーか…。勉強になる。」
洸一がウィスキーの入ったコップを傾けた。
「安いものではダメですよ。すぐに買い換える事になりますから。あ、でも家庭で使う分にはあまり関係ないかもしれませんね。」
「そうだな。」

「ねえ、あなた…。」
洸一とマスターの話を断ち切るように、俺の隣から声が聞こえた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そんなはずじゃなかったのに

ペッパーミントコーヒー
BL
芳樹と良一はもうすぐ卒業の高校の同級生。 2人は幼なじみの仲良し。 ずっと一緒だと思っていたら、大学は別の所に決まってしまった。 もうすぐお別れの寂しさに涙ぐむ良一へ、芳樹が誕生日プレゼントを贈る。 家に帰って見ると、それは滅茶苦茶セックスシーンが濃い、BL雑誌とアナル用品だった。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

主人公受けな催眠もの【短編集】

霧乃ふー 
BL
 抹茶くず湯名義で書いたBL小説の短編をまとめたものです。  タイトルの通り、主人公受けで催眠ものを集めた短編集になっています。  催眠×近親ものが多めです。

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

公爵の義弟になった僕は、公爵に甘甘に溶かされる

天災
BL
 公爵の甘甘に溶かされちゃう義弟の僕。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

括り紮げる

璃鵺〜RIYA〜
BL
シリーズ8作目です。 バンドマン同士のBL小説です。 後輩ヴォーカリスト×先輩ギタリストです。 後輩(攻め)くんが犬でストーカー気質で、先輩(受け)が女王様です。 今回はお仕事の関係で二人が長期間離れ離れになります。 それに犬が堪えられるのか?!(否、無理) 女王様がどう躾るのか?!(好き) イギリス行ったことないんで、ネット情報と妄想で書いてます。 すみません。
 ※性行為の描写あります。 ※重複投稿です。 ※オリジナルです。
 ※何かあればご一報下さい。

処理中です...