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欅葉祭まであと少し

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『あれは、どういう意味だったんだろう…。』
非常階段での出来事から10日が過ぎた。今日は日曜日。午後になって、この街最大のショッピングモール「FOUR」に、画材を買いに来ていた。駿也の家の近く。中間テストも終わったし、いよいよ今週末の欅葉祭に向けて、部活も全て休みになる。ま、俺は元々部活はやってないから関係ないけど…。

非常階段で抱きしめられた(られたのか?)後、何事もなかったかのように駿也の態度が元に戻った。あの日1日は何だったんだ?相変わらず、駿也はとり肉メインのおかずを作ってきて(どうしてとり肉ばかり?)、俺がおにぎりを作っていくというのが日課になっていた。

『今日も俺がおにぎり作っていくよ!』
メールで断りを入れなくなってからどのくらい経っただろう…。何故か自然と俺がおにぎり、駿也がおかずを作るのが当たり前のようになっていた。

3階のちょっとオシャレな文房具屋で、藍色のポスターカラーを見つけた。
『暗い色って言ってたよな。』
教室展示組の手伝いで、大量の絵の具でダンボールに色をつけている。お化け屋敷じゃないけれど、暗い迷路を作るためだ。黒じゃなくとも、藍色やこげ茶でもいいような気がする。

『駿也!?』

少しだけ買っとこうと藍色のポスターカラーを手にしたとき、店の前を背の高い男が通って行った。制服を着ていないけど…多分駿也だ。ポスターカラーを元の場所に置き、店を出て通路で駿也を探す。ジーンズを穿いてミニタリージャケットを身につけた駿也らしき人物は、5軒ほど過ぎた所を曲がって見えなくなった。

『あれ…駿也だよな?』
後をつけるように歩き出しながら考える。大きな買い物袋を2つも下げてた。食料…?多分1階の食品売り場のレジ袋だ。昨日、メールで誘ったんだ。一緒に買い物をしようって。「ごめん。明日は家の手伝いしないといけない。」そう返ってきたから、今日は1人でここにきたんだけど…。

駿也らしき人物が曲がった先には、細い通路の向こうに喫煙室と男女のトイレがあるだけだった。人は少ない。通路に置いてあるソファにも誰も座っていなかった。

『え?あの荷物を持って…トイレ?』
まさかとは思いながらも、男子トイレを覗く。用を足しているおじさんが1人…。個室も…誰もいない。個室前で首を傾げている俺を不審な目で見ながらおじさんが手を洗い始めた。

『あれ?まさか…タバコ?』
駿也がタバコを吸う?…あり得ないと思ったが、喫煙室まで戻り、ドア越しに確認する。中の良さそうな二十代ぐらいの男女がタバコを片手にお喋りをしていた。男がこちらを向いて睨んでくる。慌てて視線を逸らして通路から脱出した。

『変だな…。絶対にここの通路なんだけど…。』
駿也らしき人物が入って行ったのはここで間違いがない。狐につままれた気分になりながら、立ち止まって、メールを打つことにした。



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