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欅葉祭まであと少し

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美術準備室から出てきた女子と入れ替わるようにして、駿也が着替えに行った。…別にここで着替えてもいいのに。隆介は半裸の状態で、「寒い!」と言いながら、制服に着替え、女子の冷ややかな視線を浴びていた。

「あら、いいんじゃない?」
白雪姫の瞳美ちゃんの黄色いスカートの位置を直していた美久ちゃんが、準備室から出てきた駿也を見て、大声を上げた。

隆介用に作った衣装は、シャツは若干キツそうではあるが、そんな事も気にならないほど駿也に似合っていた。

「ちょっとだけズボン下げようか…。」
明日香ちゃんが駿也の近くに行ってズボンの位置を直す。跪いて、裾を見ながら腰のあたりに手をやっている姿に…何だか…モヤモヤする…。駿也は興味がないようにどこか遠い目をしていた。どうしたんだ?俺?…明日香ちゃんを見ると…何だか…。

「あれでメガネがなければなあ。バッチリなんだけど。代打の時には諦めるしかないかあ。」
里緒奈ちゃんが俺の隣で呟いた。駿也が代理を引き受ける条件として、「メガネは絶対に外さない」ことを出していた。ま、見えなくてステージ上で躓いて転んだら…また怪我をするかもしれないしな。

「いいよ。着替えてきて。」
明日香ちゃんの言葉に、一言も発しないまま駿也が準備室へ消えていった。



衣装合わせが終わった。駿也から受け取った衣装を持って、明日香ちゃんと美久ちゃんが、「ちょっと手直ししてくる。」とどこかに消えた後、動きの確認作業が始まった。今までは練習に参加してなかったから、俺も見るのは初めてだ。CDでナレーターの友希ちゃんの声が流れ始めた時、隣に座った駿也に話しかけた。

「台本、覚えてる?」
「…ん?…もちろん。」
だから、その間はなんだって…。けど、駿也が覚えていないはずがない。夏休み明けテストでも、総合3位だったし。英語の豆テストでは毎回満点だし…。脳みそのつくりが俺とは違うことが最近わかってきた。

「な、今日はどうかした?」
俺の言葉にゆっくりと駿也が顔を向けた。
「…何も。」
何も…じゃねえよっ!俺たち親友だろっ!?怒鳴ってやりたい気持ちをグッと抑えて言葉を続ける。

「だって、おにぎりも一つしか食べてないし。朝から変だし…。今日は肩も組んでないし。明日香ちゃんに平気で、さ、触らせてるし…」
あ、あれっ?何かへん!?…言いたいこととは違うような…。駿也は俺の顔を信じられないものでも見たかのように、目を見開いて見ていた。

「来て。」
いきなり立ち上がった駿也に腕を掴まれた。
「えっ!?ど、どこに…?」
「いいから。」
いきなり勢いを取り戻した駿也に連行されるように、美術室を後にした。練習に集中しているみんなは、俺たちに気づかないようだった。




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