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バレーにバスケ、そして野球

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「ごめん。望。怒ってる?」
「別に。どうして?」
大雨で混雑したバスの中で、駿也が俺を見下ろしながら謝ってくる。モール前から乗ってきた駿也は、そのデカい体を駆使して人の間を縫い、俺の近くまでやってきていた。別に怒ってないぞ!?

昨夜遅くメールの返信があった。
『ごめん。』
『メール今気づいた。』
『今日は忙しかったんだ。』
『また明日な。』
『お休み。』

一回のメールで済むところを5回もピロリン鳴らさせて、安眠を妨害させられたことにはイラッときたが、返事をくれたこと自体には安心できた。『お休み』。わざわざ、くまさんが枕抱いてるスタンプを探して押してやったんだ。怒ってないぞ!?

「メール見てなかったから。」
「いや、メールってそういうもんでしょ。逆にいつもすぐ既読が付いたら引くわ。」
「そうか。」
駿也は、ようやく安心したように顔を上げてあたりを見回した。

「それにしても、凄い混雑だな。」
「今日は雨だしね。俺も雨じゃなきゃ乗らないし。っと…。」

運転手がキュッと急ブレーキをかけた。俺は前のめりになり、目の前にいた駿也に倒れ込むような感じでよろけた。脚を濡らしていた傘から手を離し、手を前に出して駿也を押す形になる。その瞬間、長い駿也の片腕が背中に回され、俺の体を引き寄せた。

「!」
駿也は座席の背もたれに片腕をついていたからか、少しもよろけない。片腕で抱きしめられるような形になり、ちょっとだけ…ドキドキした。

「ご、ごめん。」
「大丈夫。」
慌てて体を離して傘を拾う。ギュウギュウ詰めの車内で辛うじて取り上げられる位置に挟まっていた。それにしても…駿也、いい香りだったな…。多分制汗剤なんだろうけど、今まで嗅いだことのない香りが鼻の奥に残った。

バスを降りる時には、雨も小降りになっていた。傘を広げると、駿也がその柄を掴んだ。
「俺も入れて。」
「駿也、傘は?」
バスに乗る時には結構な量が降っていたんだ。傘は持って来ただろ?

「バスに乗る時に鞄の中に入れた。出すの面倒。だから…な?」
「う、うん…いいよ。」
雨で濡れた傘を鞄にって…。折り畳み傘?教科書とか大丈夫かっ?内心突っ込みをしながら、学校までの短い距離を駿也と一緒に一つの傘に入って歩いた。


「おはよう。」
「おはよー望、駿也。昨日は望、寂しそうだったぜ。」
伸一が上履きに履き替えながら、要らない情報を駿也に与えてる。

「本当か?」
「ああ。今日は…元気そうだな。ところで、球技何に出る?」
傘立てに傘を置いて、靴を交換する俺を待ちながら、駿也と伸一が話を続けていた。

「俺は…なんでもいいな。望は…?」
だから、駿也、俺の肩に腕を回すのをやめろって…。彼女にやって…いや…彼女…いるのかな?

「バレー。」
バスケも野球も嫌いじゃないけど、上手くはない。俺が少しでもクラスに貢献できるとしたら、バレーボールぐらいだ。

「じゃ、俺もバレー。」
駿也がハッとするような笑顔を俺に見せた。
「俺は何にするかなー。」
伸一の話に付き合いながら、3人で階段を登り始めた。



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