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七話 お酒は二十歳になってから②*

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「こいつ酔い潰れたみたいだから、先抜けるわ。金はここに置いとくから、あと頼む。足らなかったら後で教えてくれ」
「おー、気をつけて帰れよ」
「千草大丈夫かー?」

 そう言って俺を抱えるようにして店を出ると、近くの人気のない路地裏に入り込んだ。なんだか見たことある所だなとアルコールでぼんやりとする頭で思いながら辺りを見回していると、漸く地面に降ろしてもらえた。地面に足がついたことにほっとして、振り返りながらありがとうと言うと勢いよく唇を塞がれる。

 手首を掴まれ、恐らくビルの外壁と思われる壁に押さえつけられた。足の間には悠晴の足を入っていて、身動きが取れない。

「ふ、んんっ……ゆうせ……んッ」

 深く激しい口付けは呼吸を奪っていく。
 倒れない様に必死で立っているが、足はプルプルと震えていてだんだんと力が入らなくなっている。ずるりとへたり込みそうになる俺を支える様に、悠晴の腕が俺の腰に回された。

 悠晴は俺の舌を絡めとると、音を立てて吸い上げた。甘い痺れが舌を通じて下半身に届き、下腹部がずくんと疼く。嫌でも自分のモノが勃ったのだとわかる。理玖以外でも勃つんだなとかぼんやりと考えていると、口内を暴れ回っていた舌が落ち着き、ようやっと唇が離れていった。

 はあ、はあと上がる息を整えていると、耳にぬるりとした感触が這い、かぷっと耳の上の部分を軽く噛まれて声が出た。耳元に直接響く水音に、ぴくんと身体が小さく跳ねる。

「ひ、あっ……まって、ねぇ……んやぁっ」
「……ずっとこうしたかった」
「んんっ……なに、ゆうせ……ッ」
「お前が好きだ」
「あっ……ん、やめ……!」

 掴まれていない方の手でなんとか押し返そうとするが、力の入らない手ではびくともしない。
 
 ひと月前に初めて理玖とセックスをした時に俺の身体は快感を覚えてしまったのか、それとも今日初めて飲んだアルコールのせいなのか、少しの刺激でも感じてしまう己の身体に嫌悪感を覚える。ぐっと膝で股間を刺激され、俺は悲鳴のような嬌声を上げそうになったが、既の所すんでのところで何とか飲み込んだ。

 生理的な涙か、それとも嫌悪感からの涙かはわからないがぽろぽろと目から零れ落ちる雫に、悠晴の手が止まる。

「……嫌か?」

 それは、いつもの悠晴の顔だった。
 その顔を見た瞬間ほっとした俺の涙腺は崩壊し、ぽろぽろと絶え間なく流れ出ていく。そうか、ずっと一緒にいたはずの悠晴がよく知らない男の人になったようで怖かったのかと思った時には、ぐずぐずと泣いてしまっていた。

 涙を拭うように、悠晴の骨張った大きな手が頬に触れた、その時だった。
 
「……こんなところで何してるの?」

 酷く冷たく、何の感情も含まれていないような声に、辺りは水を打ったように一気に静かになった。

 それはずっと聞きたかった声だった。もしかするとアルコールに犯された頭が聴きたいと思っていた声を脳内で勝手に再生しているだけなのかもしれないと、あまり期待せずに声の方を見て、俺は目を見開いた。

「……りく……?」
「千草、知り合いなのか?」

 ――多分恋人、だと思う。

 その言葉は女の子の格好をした理玖の鋭い視線に、思わずごくりと喉の奥に飲み込む。じゃり、と音を立てて一歩前に踏み出した理玖は俺を流し見て、小さく舌打ちをした。

「……僕はその子の恋人だよ」
「……は?」
「ひと月くらい前から付き合ってる」
「ひと月前……おい千草、どういうことだ?」

 肩を掴まれて前後に軽く揺すられたからか、ぽわんぽわんと耳の中で音が鳴ってよく聞こえない。ただ俺の肩を掴んでいる悠晴の手が少し震えているのだけはわかった。

 ひと月ぶりに見る女の子の姿の理玖はとても可愛らしくて胸がきゅんと高鳴る。徐々に耳の中で聞こえていた音が消えていき、聞こえるようになった俺の耳に届いたのは怒気を含んだ理玖の声だった。

「あんたは?あんたはその子の何?」
「俺、は……」
「ゆうせいは……おれの、しんゆうだよ」

 理玖の圧に言い淀んでしまった悠晴に変わって俺が答えると、二人分の視線が俺に突き刺さった。俺はと言えば思った以上に舌足らずな声が出たのが気に入らなくて、頬を軽くぺちぺちと叩いていた。

「……千草」
「はあ……わかったよ。ゆうせいくん、だっけ?今日は僕が連れて帰るよ。恋人だし」
「いや、でも……」
「ほら君もそれ、帰ってなんとかしたほうがいいんじゃない?……千草のことは僕がするから」

 そう理玖に強く言われた悠晴は、悔しそうに唇を噛み締めながら小さくごめんと呟いて去っていった。正直気にしてないわけじゃないけど、今はこうしてひと月も音信不通だった理玖に会えたから別に良いかななんてふわふわとした頭で思う。

 後に残された俺はと言えば、足に力が入らなくてずるずるとその場に座り込んでしまって動けなくなってしまった。そんな俺を見てはあ、と呆れたように大きく息を吐き出した理玖は俺に背を向けてしゃがみ込む。

「……乗って」
「えっ、でも……」
「早く乗って。それとも今ここで襲われたいの?」

 そう真剣な顔で凄まれ、俺は渋々理玖の背中におぶさった。よいしょ、という掛け声と共に立ち上がった理玖は、一瞬ふらりとしたもののその後は比較的安定した足取りで夜の街を歩いていく。

 ああそうだ、この道はあの日バーから理玖の家に行ったあの道だったんだ。一度気づいてしまえば一瞬にして見覚えのある道になるのだから、人間の感覚というものは面白い。数分歩くと、ひと月前のあの日に連れてこられた理玖の家に着いた。

 理玖は家に入ると俺を玄関に降ろし、俺を見下ろしながら後ろ手に鍵を掛けた。カチャンと鍵が締まる音がする。その音に顔を上げると、こっちを見ている理玖と目があったのでへらりと笑う。すると途端に理玖の顔が歪み、勢いよく抱きしめられた。

「へっ?なんで、どうした?りく?」
「……ちょっと黙って」
「んんっ?!」

 思ったことが全部口に出ていたらしく、煩いと口を塞がれた。なんか今日はよく口を塞がれる日だなと思っていると、唇の間を割って侵入してきた舌が口内を犯し始めた。ふ、とかあ、とか言葉にならない声が口の隙間から溢れていく。服を捲り上げられ、胸の突起を指先で強く摘まれると甲高い声が出た。

「ひんっ!や、りく……っ、ん」
「ねえ、僕以外の人とキスして……どういうつもり?」
「あ、ちがっ……いっ、あぁ……っ」
「ここもこんなふうにしちゃって、ねえ、僕以外の人とでも感じちゃった?」

 両方の乳首を思い切りつねられて、痛みと快感で身体がびくびくと痙攣したように跳ねる。膝でぐりぐりと股間を押され、俺は呆気なく果ててしまった。パンツもスラックスも脱いでいない状態での射精は思っていた以上に気持ちが悪く、俺の目には涙が浮かぶ。
 
 精液でベトベトになってしまった下衣を片手で膝あたりまで引き摺り下ろした理玖は、俺の背中に手を入れてごろんとうつ伏せの状態にした後、お腹に腕を入れて持ち上げた。お尻だけが上に上がった四つん這いのような格好になり、恥ずかしい部分が丸見えになる。

 理玖は丸見えになった後孔に、俺の精液と自分の唾液を塗りつけながら指を押し込むように解していく。ひと月前よりもすんなりと解れていく後孔に一瞬理玖の指が止まったが、小さな舌打ちのような音が聞こえた後はすぐに本数が増やされ奥の方まで指を突っ込まれた。

 理玖とセックスをするまで淡白だったはずが、あの初めてセックスをした日から自慰の回数が目に見えて増えていた。そしてもう一つの変化は、いつもなら前だけを弄っていればよかったのだが、それだけでは物足らなくなってしまい結局後ろも同時に弄るようになってしまったのである。

 そんな事は露ほども知らないだろう理玖は、どうやら俺が違う人とヤったと誤解してしまったようで、解しもそこそこに一気に男根を俺の中に埋め込んだ。

「――っ!」

 声にならない声と共に俺の陰茎からはびゅっと勢いよく精液が発射された。ぱんっ、ぱんっと容赦なく打ち付けられる腰に、打ち上げられた鯉のようにびくん、びくんと大きくのけ反る。

「あぁっ!あっ、あぅ……っ!」
「……く、っ……!」
「あ゛っ……や……ああっ!」

 俺の中に出入りする理玖のものが質量を増すと同時に勢いよく突き上げられ、俺の最奥に熱いものが注がれた。二度、三度とさらに奥へと注ぐように打ち付けられる。射精後、ぐったりとする俺の上半身を、未だ男根が入った状態のまま持ち上げた理玖は、まるで煩いと言わんばかりに鞄から取り出したタオル地のハンカチを俺の口に突っ込んだ。

 潜もった呻き声が漏れ、苦しさに涙が溢れる。ぴんと固く勃った乳首を摘まれ、頭が痺れるような感覚に喉がのけぞった。

「ふ、ぅんっ……うっ、んう……ッ!」
「はっ……千草の乳首は敏感だね。ほら、乳首だけでイっちゃうんじゃない?」
「んうっ……んむっ、ふ、――っ!」
「っ……ん、本当にイっちゃったね?」

 両方の乳首を強く摘まれ、こりこりとつねられた瞬間、頭が真っ白になった。ぴゅっと少量放たれた精は自分の膝と床を汚したようで、生温かなぬるりとした感触がから伝わってくる。

 イった衝撃できゅううっと締まった後孔が理玖のモノを締め付けたのか、理玖は苦しげな吐息を漏らした。理玖は俺の上衣を上へと捲り上げて、俺の手首の辺りで袖をキュッと結んで俺の頭の後ろに持っていって固定する。

「っ……良い格好だね、僕以外を受け入れた罰だよ」
「んうぅ……っ、ン、んぐっ」
「ほら、気持ちいいで……しょ!」
「ぐ、んうッ!んんっ、ぐっ……!」

 腰を掴まれて下から突き上げるように何度も何度も深く深く穿たれ、絶え間なく襲いくる快感に脳が溶けてしまいそうだ。意識が飛びそうになっては刺激で呼び戻され、おかしくなりそうだった。

 口を塞がれている今、やめてともごめんなさいとも言うことができないことがもどかしい。名前を呼ぶことすら出来ず、ただ俺の口から溢れるのは潜もった喘ぎ声だけだった。

「千草、千草……っ、大好き……!」
「んぐっ……う、んんっ、ぐ、ううぅ……っ!」

 俺も大好きだと言いたかった。

 一際固く大きくなった熱いソレが中で弾け、俺の中に熱い欲望が目一杯注ぎ込まれていく。ずちゅっと音を立てて小さく抽挿した後、理玖のモノが引き抜かれていった。

 支えを失った俺の身体は前のめりに倒れ、床に当たる寸前で理玖の腕に抱えられたが、俺はもう指一本動かすことができなかった。

 再び腰を引き上げられたが、俺の上半身はだらりと床についたまま臀部だけを突き上げたような格好になる。後背位に似たこの体位は後孔がよく見えるので挿入がしやすいのだとこの間ネットで見た。
 お尻を鷲掴まれ左右に割られると、見られていることに反応したのかお尻の穴がひくひくと開閉する。理玖の精液でとろとろに濡れそぼった後孔に、容赦なく挿入されるさっきよりも太くて硬い理玖のもの。奥まで挿入った瞬間、びくびくっと身体が震えた。俺の性器からは壊れた蛇口のようにだらだらと残った精液や先走りといった体液がこぼれ続け、理玖の家の床をどろどろに汚していく。

 何度も何度も突かれ続けた身体は、全身が性感帯にでもなってしまったかのように少しの刺激でも絶頂を迎えるようになっていた。ばちゅんっ、ばちゅんっと音を立てながら抽挿を繰り返される後孔からは、収まり切らなかった精液が隙間から漏れ出し、太腿を伝って床に水溜りを作っていく。

「千草は僕のものだ、誰にも渡さない、から!」
「ん、ぐっ!……ぐ、う……っ」
「千草……もう僕以外、受け入れないで、ね?」
「んんっ……んっ、――――っ」

 朦朧とする頭を必死に動かしてこくこくと頷くと、理玖は後孔に亀頭が引っかかるくらいまで引き抜いた後、一気に最奥を突いた。出すものがなくなってしまったのか、それとも俺の陰茎がただ壊れてしまっただけなのか、勢いよく透明の液体が吹き出し、俺の胸や顔をびちゃびちゃにしていく。

 ちゅぽんと音を立てて俺の中から理玖が出ていったのを最後に、俺の意識は闇に沈んだ。

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