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第四章

七十六話 恋人としての触れ合い※

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 もう一度、今のようなキスをすればプレイの時との違いがわかるかもしれない。そう思った俺は律樹さんの頬に手を伸ばし、柔らかな髪がかかる首の後ろへと指先を絡めた。そして目を閉じ、顔を上げながら徐々に引き寄せる手に力を込めていき――もう少しで触れ合うという時だった。

「……?」

 遠くの方で玄関チャイムのような音が聞こえてきた気がして、俺はぴたりと動きを止めた。閉じていた瞼をゆっくりと押し上げ、律樹さんの首の後ろに置いていた手を下ろす。
 なんだろうと視線を背後にある扉の方へと滑らせると同時に耳に触れていた手が腰に回り、ぐっと引き寄せられたかと思えば、唇が勢いよく重なった。

「……ッ!」

 上顎や歯列を舌先で撫でられ、そして再び絡め取られた舌が吸い上げられる。くちゅと湿った音が重なり合ったところから鳴り響き、俺はきゅっと目を閉じた。
 僅かに開いた隙間から溢れたどちらとも言えない唾液が顎から首筋へと伝っていく。そして寝巻きがわりに来ていたシャツの中へと吸い込まれていった。
 呼吸を奪うようなそれに頭がくらくらとする。さっきのは幻聴だったのだろうかとぼんやりと考えていると、図ったように再び耳に届いた微かなチャイム音。俺は薄らと目を開けて律樹さんに視線を向けた。

「……」
 
 律樹さんの瞳がちらりと扉の方に向く。彼にしては珍しくほんの僅かに眉間に皺が寄っていた。珍しいなぁ、と思いながら見つめていると、再び琥珀色の瞳が俺を捉えた。

「俺を見て」
 
 真剣な色を含んだ声色が耳を打つ。低い声に鼓膜が震える。お腹の奥がきゅっとなる感覚に目を閉じたと同時に、律樹さんの温もりが両耳を塞いだ。大きな手のひらが耳をすっぽりと包み込む。
 ぐっと頭の角度を変えられ、また重なり合う。何度も何度も湿った音とともに降り注ぐ柔らかな唇に、身体が熱くなる。

「……っ、……」

 外音が遮断され、代わりに唇同士が触れ合う音が低く響く。耳を塞がなかった時よりも鮮明に生々しく聞こえてくる音に俺の羞恥心はより掻き立てられ、下半身はさらに熱を帯びていった。窮屈そうに下着を押し上げるように勃つそれが、布越しに律樹さんの足に当たる。そんな小さな刺激にさえ身体はびくっと震えるように反応した。
 触れ合いは角度を変え、徐々に深さを増していく。音が耳の奥で反響し、もうそれしか聞こえない。触れ合ったところが熱くて今にも蕩けてしまいそうだった。

 むずむずとした感覚に小さく足を動かす。勃ち上がった先端が下着の布に擦れ、小さな快感が背筋を走った。ぶるりと身体が小さく小刻みに震える。そして次の瞬間にはじんわりと熱が広がっていた。

(う、あっ……で、でちゃった……っ)

 今はベッドの中だ。だから早く着替えないとベッドが汚れちゃう。なのに止めるために彼の胸元を叩こうとした手はまるで縋り付くように緩く服を掴んでいるだけだった。

 大きな手が両耳を挟むように塞いでいる。頭を引き寄せられ、さらに口付けは深さを増していった。
 一度吐き出したはずの下半身は再び熱を持ち始め、窮屈そうに下着を押し上げ始めた。下着についたぬるりとした液で先端が引っかかりもなく擦れ、脳が痺れるほどの快感が背筋を這い上がる。達したばかりのそこは敏感で、気を抜けば少しの刺激でさえすぐにイってしまいそうだ。過ぎた快感から涙が滲み、目尻から溢れたそれが耳を塞ぐ彼の手を濡らしていく。

「っ……」

 ゆっくりと離れていく唇。二人を繋ぐように細く垂れ下がっていた透明の糸がぷつりと切れた。相変わらず耳は塞がれたまま俺たちは互いに見つめ合う。律樹さんの口がぱくぱくと動いているが、塞がれたままの俺の耳には届かない。鼓膜を揺らすのは触れた手のひらから伝わる彼の鼓動だけだ。とくんとくんと規則正しくリズムを刻むそれはいつもより早く、彼が興奮しているのだとわかってさらに胸がきゅっとなる。
 律樹さんの手が俺の耳から離れて下に下がっていく。首筋や胸元をなぞりながら添えられた腰をぐいっと抱き寄せられ、びくんっと身体が跳ねた。

(っ、あ……また、こすれ……ッ)

 俺の吐き出したもので濡れた下着に先端が強く擦れ、痺れに似た快感が走った。全身が緊張したかのように強張り、背筋が緩やかに反る。肌に服が擦れる感覚だけでも身体がぴくぴくと震え、下はすぐにでも限界を迎えてしまいそうだった。

「……脱がしてもいい?」
「っ……」

 そう耳元で低く囁かれ、びくびくと身体を震わせながらこくこくと頷いた。ほんの少し上がった熱い息が耳にかかる度に腰の辺りがぞくぞくとする。
 布団を剥ぎ取った律樹さんが俺の上に覆い被さるように跨った。下から見上げる律樹さんも格好いいというか、なんか色っぽい。優しいのにどこか獰猛さを感じる琥珀色の瞳が細まり、唇が塞がれる。

「……ッ」

 当然のように口腔内を暴れ回る舌。弱いところを柔く擦られる度に腰が跳ねる。ねっとりと絡め取られた舌から伝わる快感が脳を痺れさせていく。そうして気がついた時には俺の大事な部分は外気に晒されていた。
 ぐちゅりと粘り気のある水音が立ち、腰が跳ねるように浮く。大きくて骨張った手が俺の猛りを優しく包み込んだのだ。親指で先端を軽く押しつぶされるとすぐにイきそうになる。俺は思わず待って、と彼の体を支える片腕に縋った。まって、イっちゃうからと薄く開いた目で訴えると、律樹さんが目を細めて薄く笑う。よかった、伝わったと安堵したのも束の間。

「……――ッ⁉︎」

 律樹さんの手が上下に動き出す。ぬちゅ、ぐちゅと耳を塞ぎたくなるようないやらしい水音が絶え間なく鳴り響き、俺は呆気なく欲望を吐き出した。びくびくっと全身が小刻みに痙攣し、目尻からこめかみの方へと涙が伝う。
 唇と手が離れていき、俺は荒い息を繰り返す。呆然と見上げた視界に映るのは、いつもとは少し違う雰囲気を纏う彼の姿だった。

 
 
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