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第四章
七十五話 パートナーと恋人 後編※
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※キスの表現があります。
「じゃあ今はプレイじゃなくて、恋人として触れ合おうか」
律樹さんの言葉に俺はこくりと頷いた。
初めは律樹さんと触れ合いたくて誘ったプレイだったが、プレイ以外でも恋人として彼と触れ合うことが出来るのなら今はそれがいい。夜になればどちらにしろプレイはするのだから、今はこのままコマンドもなくただの恋人として触れ合っていたいとそう思えた。
ただ一つだけ気になることがある。それはさっき律樹さんが言っていた性行為――つまりセックスのことだ。男女のやり方はなんとなくわかるのだが、男同士ではどうするんだろうと少し興味が湧いた。俺も律樹さんも男だから挿れる物はあっても、挿れる所なんてあるはずがない。それなのに男同士でも出来るというのはどういうことなんだろう。
けれどそれを律樹さんに聞くのは流石に躊躇われ、俺は僅かに熱くなった顔を隠すように再び彼の胸元へと頭を押し当てた。
「ふふっ……弓月は俺と触れ合うの好き?」
『すき』
首を縦に動かした後、少しだけ律樹さんから離れてそう口を動かした。
律樹さんとの触れ合いは、俺の全てが彼にとって大切な物なんだって思わせてくれるような優しいものが多い。自分自身にさほど価値があるとは思えない俺でさえも、俺なんかでももしかすると律樹さんにとっては必要なのかもしれないと思わせてくれる。
例えるなら、今までが冷たい海の底だったのだとすれば、彼といる今は春の陽だまりだ。暖かくて柔らかな日差しが差し込むふかふかの原っぱで綿に包まれているような、そんな感じだった。
「……俺も好きだよ」
優しくて暖かな陽だまりのような笑みに思わず俺の頬も緩む。今日は朝から何度も聞いた『好き』という言葉だが、耳に届くたびに俺の心の温度を上げていった。
俺は寝転んだまま背伸びをするように首を伸ばし、彼の柔らかな唇に自分のそれを合わせた。プレイ中じゃなくてもしていいって言ったのは律樹さんなんだからな、なんて心の中で呟きながらそっと口付けをする。
顔が熱い。呼吸を奪うようなものではなく、ただ軽く触れ合うだけのキスなのに全身が茹だったみたいに熱かった。
「!……なんで、そんなかわいいの……」
律樹さんが顔を赤く染めながらそんなことを呟いた。別に可愛くはないと思うけど、と思いながら彼の赤く色付いた唇をじっと見つめる。
本当はこんな触れるだけのキスじゃなくて、食べられてしまうんじゃないかってくらい深くて、それこそ息が出来ないくらいの口付けがしたい――なんて言ったら律樹さんはどんな顔をするのかな。
そんなことを心の中で密やかに思う。でもきっと思うだけだ。言葉にすることも、ましてや実行するなんてことは多分俺にはできない。
プレイ中ならいくら恥ずかしくてもコマンド一つで出来てしまうキスも、コマンドがなければただ触れ合うだけの軽いもので精一杯だった。結局俺はやっぱりコマンドがないと動けないSubなんだ、なんてネガティブな思考が浮かんだ時だった。
長くてすらりとした指先が顎に添えられ、くいっと持ち上げられる。顎が上がると必然的に頭全体が持ち上がり、俺の顔は自分の意思とは関係なく上を向いた。俺を見下ろす琥珀色の瞳と視線がかち合い、その透き通るような綺麗さに息を呑んだ。
「……っ」
気付けば互いの唇が重なっていた。ふに、と柔らかな感触が唇に触れている。初めは啄むように、しかしやがてそれは深く合わさりあっていく。
顎に添えられていた指先が輪郭に沿って肌を撫でるように移動し、耳に触れた。柔らかな耳朶や少し固い耳殻を指先で軽く揉むようにゆっくりと動いていく。耳に性感帯が集中しているのかとでも言いたくなるくらい、そこを優しく触れられるとぞくぞくして堪らない。湧き上がる快感に耐えるようにきゅっと目を瞑った。すると耳に触れている手とは反対の手が後頭部に添えられて引き寄せられ、重なった唇がさらに深く重なり合った。
「……っ、……!」
僅かに開いていた唇の隙間からぬるりと熱い舌が差し込まれ、奥へと引っ込もうとしていた俺の舌が絡め取られた。水音を立てながら、ざらざらとした感触が舌全体を包み込むように動いていく。
言わなかっただけで本当は望んでいた深い口付けに、俺はどうにか応えたいと必死で舌を動かした。しかし慣れていないせいで動きは覚束ない。そんなことをしている間にも律樹さんの熱くぬるりとした舌に翻弄されていく。じゅるっと水音が立ち、舌の根本から先へと絡みとるように吸われ、俺は背筋を震わせた。
腹の奥がずくんと疼き、下半身に熱が集まっていくのがわかる。耳を弄ぶ指先が耳殻をなぞり、耳の後ろに触れ、そのまま首筋へと滑っていく。それが擽ったいのかなんなのか、ぞくぞくとした感覚に俺は小さく身じろぎをした。目尻に浮かんだ涙が溢れ、頬を伝っていく。
呼吸を奪われるなんてものではない。寧ろ呼吸することを忘れてしまうほどに、この時の俺は今まで感じたことのないほどの幸福感に包まれていた。
「ん……っ」
どのくらい経ったのかなんて酸欠でぼんやりとした頭にはわからないが、体感はそれなりに長かったような気がする。上がった息を整えるように大きく呼吸をしながらゆっくりと瞼を押し上げると、優しげに細められた琥珀色の瞳がこちらを見ていた。
「……どう?何か、違った?」
「……」
俺はふわふわとした感覚の中、こくんと頷いた。
プレイ中も多幸感はあったし、満たされる感覚も確かにあった。けれどこれはなんというか、コマンドがないせいでよりリアルに感じてしまうというか、俺にもよくわからないのだけど兎に角何かが違うような気がした。
プレイ中は、コマンドがあれば積極的になれる。サブスペースに入って終えばふわふわとしたお花畑のような感覚のまま、欲求に忠実になることが出来るのだが、コマンドもないプレイ外の今はその感覚に身を任せることができない。サブスペースと似たような感覚はあるけれど、それはやっぱり全くの違うもののようで欲求に忠実になることはできないようだった。
「じゃあ今はプレイじゃなくて、恋人として触れ合おうか」
律樹さんの言葉に俺はこくりと頷いた。
初めは律樹さんと触れ合いたくて誘ったプレイだったが、プレイ以外でも恋人として彼と触れ合うことが出来るのなら今はそれがいい。夜になればどちらにしろプレイはするのだから、今はこのままコマンドもなくただの恋人として触れ合っていたいとそう思えた。
ただ一つだけ気になることがある。それはさっき律樹さんが言っていた性行為――つまりセックスのことだ。男女のやり方はなんとなくわかるのだが、男同士ではどうするんだろうと少し興味が湧いた。俺も律樹さんも男だから挿れる物はあっても、挿れる所なんてあるはずがない。それなのに男同士でも出来るというのはどういうことなんだろう。
けれどそれを律樹さんに聞くのは流石に躊躇われ、俺は僅かに熱くなった顔を隠すように再び彼の胸元へと頭を押し当てた。
「ふふっ……弓月は俺と触れ合うの好き?」
『すき』
首を縦に動かした後、少しだけ律樹さんから離れてそう口を動かした。
律樹さんとの触れ合いは、俺の全てが彼にとって大切な物なんだって思わせてくれるような優しいものが多い。自分自身にさほど価値があるとは思えない俺でさえも、俺なんかでももしかすると律樹さんにとっては必要なのかもしれないと思わせてくれる。
例えるなら、今までが冷たい海の底だったのだとすれば、彼といる今は春の陽だまりだ。暖かくて柔らかな日差しが差し込むふかふかの原っぱで綿に包まれているような、そんな感じだった。
「……俺も好きだよ」
優しくて暖かな陽だまりのような笑みに思わず俺の頬も緩む。今日は朝から何度も聞いた『好き』という言葉だが、耳に届くたびに俺の心の温度を上げていった。
俺は寝転んだまま背伸びをするように首を伸ばし、彼の柔らかな唇に自分のそれを合わせた。プレイ中じゃなくてもしていいって言ったのは律樹さんなんだからな、なんて心の中で呟きながらそっと口付けをする。
顔が熱い。呼吸を奪うようなものではなく、ただ軽く触れ合うだけのキスなのに全身が茹だったみたいに熱かった。
「!……なんで、そんなかわいいの……」
律樹さんが顔を赤く染めながらそんなことを呟いた。別に可愛くはないと思うけど、と思いながら彼の赤く色付いた唇をじっと見つめる。
本当はこんな触れるだけのキスじゃなくて、食べられてしまうんじゃないかってくらい深くて、それこそ息が出来ないくらいの口付けがしたい――なんて言ったら律樹さんはどんな顔をするのかな。
そんなことを心の中で密やかに思う。でもきっと思うだけだ。言葉にすることも、ましてや実行するなんてことは多分俺にはできない。
プレイ中ならいくら恥ずかしくてもコマンド一つで出来てしまうキスも、コマンドがなければただ触れ合うだけの軽いもので精一杯だった。結局俺はやっぱりコマンドがないと動けないSubなんだ、なんてネガティブな思考が浮かんだ時だった。
長くてすらりとした指先が顎に添えられ、くいっと持ち上げられる。顎が上がると必然的に頭全体が持ち上がり、俺の顔は自分の意思とは関係なく上を向いた。俺を見下ろす琥珀色の瞳と視線がかち合い、その透き通るような綺麗さに息を呑んだ。
「……っ」
気付けば互いの唇が重なっていた。ふに、と柔らかな感触が唇に触れている。初めは啄むように、しかしやがてそれは深く合わさりあっていく。
顎に添えられていた指先が輪郭に沿って肌を撫でるように移動し、耳に触れた。柔らかな耳朶や少し固い耳殻を指先で軽く揉むようにゆっくりと動いていく。耳に性感帯が集中しているのかとでも言いたくなるくらい、そこを優しく触れられるとぞくぞくして堪らない。湧き上がる快感に耐えるようにきゅっと目を瞑った。すると耳に触れている手とは反対の手が後頭部に添えられて引き寄せられ、重なった唇がさらに深く重なり合った。
「……っ、……!」
僅かに開いていた唇の隙間からぬるりと熱い舌が差し込まれ、奥へと引っ込もうとしていた俺の舌が絡め取られた。水音を立てながら、ざらざらとした感触が舌全体を包み込むように動いていく。
言わなかっただけで本当は望んでいた深い口付けに、俺はどうにか応えたいと必死で舌を動かした。しかし慣れていないせいで動きは覚束ない。そんなことをしている間にも律樹さんの熱くぬるりとした舌に翻弄されていく。じゅるっと水音が立ち、舌の根本から先へと絡みとるように吸われ、俺は背筋を震わせた。
腹の奥がずくんと疼き、下半身に熱が集まっていくのがわかる。耳を弄ぶ指先が耳殻をなぞり、耳の後ろに触れ、そのまま首筋へと滑っていく。それが擽ったいのかなんなのか、ぞくぞくとした感覚に俺は小さく身じろぎをした。目尻に浮かんだ涙が溢れ、頬を伝っていく。
呼吸を奪われるなんてものではない。寧ろ呼吸することを忘れてしまうほどに、この時の俺は今まで感じたことのないほどの幸福感に包まれていた。
「ん……っ」
どのくらい経ったのかなんて酸欠でぼんやりとした頭にはわからないが、体感はそれなりに長かったような気がする。上がった息を整えるように大きく呼吸をしながらゆっくりと瞼を押し上げると、優しげに細められた琥珀色の瞳がこちらを見ていた。
「……どう?何か、違った?」
「……」
俺はふわふわとした感覚の中、こくんと頷いた。
プレイ中も多幸感はあったし、満たされる感覚も確かにあった。けれどこれはなんというか、コマンドがないせいでよりリアルに感じてしまうというか、俺にもよくわからないのだけど兎に角何かが違うような気がした。
プレイ中は、コマンドがあれば積極的になれる。サブスペースに入って終えばふわふわとしたお花畑のような感覚のまま、欲求に忠実になることが出来るのだが、コマンドもないプレイ外の今はその感覚に身を任せることができない。サブスペースと似たような感覚はあるけれど、それはやっぱり全くの違うもののようで欲求に忠実になることはできないようだった。
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