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絶望 9
しおりを挟む「問題ない。
余の国から封印解除の魔法をさせたら、国一番のモノを選んだ。その為に過度に調整し、それ以外の魔法を一切使えぬように封じ込めている。
さっき見せただろう?」
ソニオの国王がそう言うと、吹き荒れる風の音はさらに激しくなった。窓ガラスを破らんばかりに荒れ狂い、蝋燭の火が何本か消えると、ゲベートの国王はその火を見つめたのだった。
「あの色の白い女の子か?
今にも死にそうだが…少し勿体無いの」
ゲベートの国王はマーニャの可愛い顔を思い出しながら言った。
「多量のクスリを飲ませて注射も倍以上打った。何度も意識を失って倒れるぐらいにな。
金貨3枚もする薬を与えたら治るが、マガイモノにはもったいない。どうせ治療をしたとしても、長くは生きられない。
最果ての森に着き、封印さえ解ければいい。成功さえすれば、そこで死のうとかまわん。
お前たちもそのつもりで、マガイモノを選んだのだろう?」
ソニオの国王がそう言うと、恐ろしい雷の音が響き渡り、何処かに落ちたようだった。
「あぁ、私の国も限界まで調整している。
少年だが、可愛い男の子だ。少し惜しいが、仕方がないの」
ゲベートの国王は雷の音に体を震わせながら言った。
「なんだ?お前は、そういう趣味もあったのか?
だがマガイモノに手を出すことだけは、絶対に許されんぞ!
これ以上禁忌を犯すことは、国王であってもならぬのだから。神の怒りに触れるぞ」
と、ソニオの国王は険しい表情で言った。
「少年には、興味はないわ。私が問題にしているのは、忘却の呪文だ。アレには、忘却の呪文も唱えさせているからな。
マガイモノはなかなか性行為を行わない。クスリを使っても人間のようには欲情せんからな。数が増えんのだ。
だからこそ、忘却の呪文を唱えさせるのに苦労しとる。唱えることが出来るモノが、ひとつ減ることになる」
ゲベートの国王は深い溜息をつくと、オラリオンの国王も頷きながら口を開いた。
「そうだな。
忘却の呪文を唱えさせ続けねばならないというのに…鎖が…」
「鎖の話はするな!」
ソニオの国王は凄まじい形相をしながら怒鳴った。
「そうだ!鎖の話だけはしてはならぬ!」
ゲベートの国王は青ざめ震え、誰もいない部屋の中をキョロキョロと見渡した。
「そうだったな。どうかしていた…」
オラリオンの国王がそう言うと、ソニオの国王は恐ろしい目で睨みつけた。
「魔法使いが余計な事を言い出したから、ああなったのだ。
だからこそ、マガイモノは「精一杯」余に尽くさせる。マガイモノの魔力は昔と比べると微々たるものだが、大人になればまた国王に逆らおうとしてくるだろう。
ならば微々たる魔力をとるしかない。子供のままでも、ちゃんとした魔力が備わっていればいいというのに…ええぃ!忌々しい!
奴等は「精一杯」人間に尽くせばいいだけの土塊だ!
だからこそ心と体の成長をとめて調整し、もう二度と逆らわぬように恐怖と絶対服従を植え付けたのだ。
微々たる魔力でしか生まれてこれなかった何の価値もないマガイモノであると刷り込んできた。
要らぬ口など聞かぬようにな!
マガイモノは、余の所有物だ。国王に逆らえばどうなるか、その体に叩き込んでやる。
それに散々、体を弄ったんだ。クスリと注射を打たねば生きていくことも出来ぬわ」
ソニオの国王は恐ろしい形相でまくしたてた。
その顔は怒りと憎しみで歪み、殺戮を好む騎士団を従える最も冷酷無惨な野獣そのものであった。
「そうだ…あの力は、国王のモノだ。
反抗せぬように、マガイモノ同士では傷を癒す回復魔法が使えないと意識を操作している。これからもあらゆる魔力を調整し続けてやる。
あの力は、国王だけが自由に使っていいモノだ。
これからも永遠に、奴等の力は国王のモノだ」
ゲベートの国王の目はめらめらと邪悪に燃え上がった。
「道具ではあるが、どんなに人間の力が進歩しようとも、奴等には敵わぬ。人間では越えられぬ。
土塊のくせに…最初に生まれた我等が上位種なのにもかかわらず!忌々しいマガイモノが!」
オラリオンの国王は嫉妬の感情を込めながら言った。
「奴等は忌々しいが、ユリウス様はちがう…あの御方は…」
ゲベートの国王は恍惚の表情を浮かべながらそう言った。ゲベートの国王が見つめる壁に描かれた絵画には、目を奪われるほどに美しい男が描かれていた。
「そうだ!ユリウス様は!
あの御方は我等を導き、世界を救われたのだ。
神々しいほどに美しく絶大な力を持ち、真に我等を導いて下さる存在だった。
空に虹をかけられ、天使の梯子を見せて下さる御方だ!
神が我等に与えた美しい光だったのだ。
ユリウス様さえ今も生きていてくだされば、こんな事には…魔王など恐れることはなかったのに!
残ったのが役立たずのマガイモノとは…」
オラリオンの国王がそう言い出すと、国王たちは声を揃えてユリウスを褒め称えた。
国王たちの会話はさらに続いたが、外は大雨となり激しい風の音で、フィオンには何も聞こえなくなった。
魔法使いの話は吹きすさぶ風の音で全く聞こえなかったが、途切れ途切れに聞こえた勇者に関する会話に彼は絶句していた。心臓が激しく震えるのを感じながら真っ黒な部屋を眺めると、少し開いているドアからは蝋燭の匂いが漂ってくるのだった。
蝋燭の明かりに照らされて浮かぶ国王の顔は、人間とは到底言い難いほどの醜悪さに満ちていた。
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