クリスタルの封印

大林 朔也

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絶望 7

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「魔物か…。本当に、魔物はまだダンジョンの中で生きているのだろうか?いや、生きているはずがない。
 日の光もなく、空気も水も食い物もない地中深くのダンジョンに閉じ込められているのだから。
 共食いしながら、死に絶えただろう。骨となった死体だけがゴロゴロしているダンジョンにちがいない」
 と、ゲベートの国王は言った。

「いや…そうとも言い切れぬ。
 魔物は我等とは生命力がちがう。
 海の怪物に、ソニオの騎士団は喰われたのだろう?
 それが何より何かがまだあそこに存在しているという証拠だ。そして、その何かを守っているのだ。
 そうは思わんか?
 ソニオの国王よ、そなたが何の相談もせずに陸橋を渡ろうとするから、そなたの国の黄金の羅針盤が海に沈んだのだ。
 どうしてくれるのだ?
 そのせいで黄金の羅針盤は一つだけになったんだぞ!
 あれがなければ、あの広大な大陸でダンジョンを見つけるなど不可能だ」
 オラリオンの国王は真っ赤な顔で大きな声を上げた。


「まさか陸橋を渡ろうとした騎士全員が、怪物に喰われるとは思わなかった。
 余の国が、一番あのダンジョンに近いのだ。ダンジョンのことを考えると夜も眠れない時がある。
 強固な壁と選りすぐりの騎士に守らせてはいるが、実際に魔王が攻めてきたら何の役にも立たぬだろうな。
 お前たちは余の国が、いつの日か本当に攻め込まれても、準備をするだけの時間がある。
 余は、いつも気に病んでいる。今度こそ、ちゃんとクリスタルを破壊してもらわねばならない。
 今回の勇者にも魔法が使えるようにすれば良かったな。
 かつての勇者のように武器に血水晶をはめ込めば…いろいろ面白いことになるかもしれぬ。人間でありながら魔法が使える勇者は、余の思いのままだ。
 英雄なのだから、魔法の力も授かって当然だ」
 ソニオの国王は残忍な笑みを浮かべて2人の国王の顔を見渡した。ゲベートの国王は視線を逸らし、オラリオンの国王は苦々しい顔をしながら口を開いた。


「それは無理だ。血水晶を作り出すには、マガイモノには少なくとも10人は死んでもらわねばならぬ。死んだマガイモノの血を固めた血水晶を武器につけ、人間にも魔法が使えるようにしたのだから。
 我はもう闇の上級魔法に手を出す気はないし、そんなに殺せるだけの人数はもうおらん。
 アノシゴト…忘却の呪文を唱えさせなければならんしな。今回作り出せたのは、マガイモノの魔力を限界にまで引き出せる石コロだけだ。それをマガイモノの杖の先につけさせている。あれでも3人殺した。
 なんとしてもダンジョンに入らねばならぬ…なんとしても陸橋を渡らせなければならない」
 オラリオンの国王は体を震わせながら言った。

「大丈夫だ…儀式を…白の教会で儀式をちゃんとやりさえすれば…陸橋を渡れる。
 かつての勇者も、そうして陸橋を渡ったのだから」
 ゲベートの国王は小さな声で言うと、祈るように両手を合わせた。

「白き杖がないのだから、儀式には意味はない。
 儀式をやったとしても《最後の聖職者》のような特別な力も、余にはないのだからな」
 ソニオの国王は腹立たしそうに言った。

「いや、大丈夫だ。状況は、かつての勇者と一緒だ。
 あの時も白き杖はなく、聖職者もいなかった。
 白き杖は《最後の聖職者》と共に、聖なる泉の底に落ちていったのだから。
 だが、どんなに泉の中を探しても見つからない。新しい聖職者もあらわれない。一体どうなってしまったのか…」
 オラリオンの国王が頭を抱えながら言うと、ソニオの国王は大きくため息をついてみせた。

「もう、この話はいい。
 お前たちの暗い顔を見ているだけで、ため息が出てくる。勇者が失敗すれば、その時に考えることにしよう。
 勇者といえば、お前たちの国の勇者は決まったのか?
 国民から信頼されているマトモな騎士の隊長にせねばならんぞ。実力があり名誉を重んじ、国民に絶大な人気を誇る隊長にせねばな。
 国民が勇者と納得するような騎士でなければならぬのだから。余の国で、好き勝手に振る舞われては困るしな」
 と、ソニオの国王は鋭い目をしながら言った。

「ソニオの国王よ。貴様にその言葉をいう資格はないぞ。
 私の国は問題ない」
 ゲベートの国王が自信満々に答えると、ソニオの国王はジロリと睨んだ。

「えらく自信満々だな」
 と、ソニオの国王が言った。

「私の国の勇者は、私の息子であるアーロンだ。
 アーロンは絵に描いたような素晴らしい騎士だ。私の命令には絶対に従い、何もかもを完璧にやり遂げ、国民からの信頼も絶大だ。
 そのアーロンが勇者となれば、国民も納得するだろう。
 アーロンならばダンジョンに潜り、そこに魔物がいなくても全てを察し、クリスタルを破壊して破片を持ち帰ってくるだろう。
 それに勇者の中に、私たちの側の者をいれておかねばならない。その点も、アーロンなら問題がない。
 マトモな勇者ばかりでは、余計な事を知って、妙な気でも起こすかもしれないからな」
 ゲベートの国王は薄汚い笑みを浮かべながら言うと、窓に打ちつける雨の音が響くようになった。

「あの美しい騎士か。
 だが、お前の息子だ。本当に信用出来るのか?
 余の国を他国の騎士に自由に歩かれるのは気に食わん。勇者が泊まる町と村には見張りをつけておこう。勇者と魔法使いの言動を、常に監視させる。
 お前のように信用出来ぬ男で、余計な事を企てるかもしれん。余の国の勇者を唆して、余に弓でも引かせるようなことをするかもしれない。
 それに…マガイモノが勇者に助けを求めるかもしれない。室でしている事を、いずれ英雄になる者に知られたら厄介だ。
 クスリ漬けにはしているが、何が起こるか分からないからな」
 と、ソニオの国王は言った。

「勝手にしろ。
 だがな、アーロンが私に背いた事など一度もないわ!」
 ゲベートの国王は顔を真っ赤にしながら怒鳴り声を上げた。

「息子だからといって盲目に信じすぎだろう?」
 ソニオの国王が冷たい目を向けながら言うと、オラリオンの国王も笑い出した。


「何がおかしい?!貴様の国の弓の勇者は決まったのか?」
 ゲベートの国王は憤慨しながら言った。

「我の国からは、女の勇者にする」
 と、オラリオンの国王は言った。

「女?貴様が女を勇者にするとはな…その勇者も貴様の女だったのか?もう用無しか?
 貴様、村娘と町娘を食い荒らしているらしいではないか。宮殿にいる女だけでは満足出来ぬのか?」
 ゲベートの国王は下卑た笑みを浮かべながら言った。

「あぁ、そうだ。この先、何があるか分からん。子供は沢山いた方がいい。
 それに我はな、すでに完成された女よりも、素朴で無垢な村娘の方が好きだ。貴族の女は気位が高いし、政治に口を出そうとする。
 それに飽きたら、村娘の場合は簡単に下げ渡すことが出来る。側近も妾ができたと喜んでいる。いろんな技術もしこんでいるしな」
 オラリオンの国王が醜悪な顔で言うと、ゲベートの国王も薄汚い顔で笑った。

「しかし、勇者は我の女ではない。騎士など怖くて寝所には呼べんわ。
 でも…どこかで見たことがあるような?
 下を向いてばかりいるから顔がよく見えんが、化粧をさせ髪を伸ばし綺麗に着飾れば…なかなかになりそうだ。
 体も締まっているし具合も良さそうだ。そろそろ新しい趣向もいいかもしれん。その場合は、クスリを飲ませて動かぬようにさせんといかんな。
 それよりもソニオの国王よ!問題は、そなたの国だ!
 そなたの国の騎士は、一体どうなっている?
 そなたの国の騎士は、野蛮な男ばかりではないか!」
 と、オラリオンの国王は言った。

「余の国からは、先程見せた赤髪の男を勇者とする。
 なかなかいい面構えだろう?
 あの男は、鬼神のように強い。隊長になってから、戦に負けたことがない。あの赤髪のように体中を血で染め上げながら人を殺していく。血に飢えた…野獣のような男だ。
 余は、殺戮を好むアレの目がすきだ。
 かつてアレを飼っていた隊長も、残虐な男だった。「人を殺すことに興奮するから部隊に入れて欲しいと言って、自分よりも屈強な男の顔を潰して首を持ってきた」と聞いた時から気に入り、隊長にアレを育てるように命じたのだ。
 言葉通りに人を殺せるのか何度も試させてからな。出来ないような口だけの兵士は殺せと命じておいた。
 アレは本当に狂っている。
 自らが上り詰めることしか考えていない。五体をバラバラにし、両の目をくりぬき、どんな殺し方でも命令した通りにやり遂げる。どんな臓器でも取ってくる。
 敗戦が続いていた第5軍団の隊長と決闘をさせたらアレが勝ち、ついには隊長にまで上り詰めおった。
 いやはや面白かった。番犬は強い方がいいからな」
 ソニオの国王は残酷な目を輝かせながら、クククッと笑い出した。

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