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シルヴィア・レストナード②
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レストナード家の長女であるはずの私は10歳で使用人棟の屋根裏部屋に押し込められ、過酷な暮らしを強いられることになった。
まず、食事が用意されない。
使用人棟では、全員が同じ時間に食堂に集まって食事をする。
つまり、個人用の食事の準備というものをしない。
ただでさえ義母の影響で私を馬鹿にしている使用人たちが薄汚れた屋根裏部屋にわざわざ食事を持ってくるわけがなかった。
仕方なくキッチンからこっそりとクズ野菜や加工肉の切れ端などを持ち出して食べている。
見つかれば使用人たちにこっぴどく叱られ、鞭を持った義母がやって来て背中がミミズ腫れだらけになるが、生きるためにはそれしか無かった。
次に、身を清める道具がない。
タオルも櫛の1本も無い屋根裏部屋では、身を清める手段が無かった。
使用人たちですらたまに大浴場で身を清めるというのに、私は夜中に井戸から水を汲んできて濡らした服で身体を擦り、髪を洗うしかない。
当然冬には何度も風邪をひいたし、肌はボロボロに、髪はお母様にそっくりだと褒められた頃の面影など一切残らないごわごわしたものになってしまった。
着るものも使用人の作業着より粗末なワンピースがたった3着、あちこち穴が空いて肌に当たる部分はチクチクする。
16歳になる今ではとうに丈が足りず、服と呼べるかすら怪しい代物である。
どうせ誰も見ていないのは分かっているが、あまりにも惨めでふと泣きそうになってしまう。
義母と妹は週に一度ほど使用人棟を訪れる。
その日はメイドに両腕を掴まれて部屋から引きずり出され、2人に「ああ醜い」「化け物」「できそこない」などと言われながら鞭で打たれ、足蹴にされる。
たいてい使用人たちもニヤニヤと笑いながら集まって来て、一緒になって暴力を振るったり頭から水をかけたりする。
彼女たちは趣味の悪いことにしっかりと服で隠れる部分だけを狙って傷を付けてくる。
憂さ晴らしが済んだ頃には身体中がミミズ腫れと切り傷、青あざでいっぱいになって、その夜は何度寝返りを打っても痛みで眠ることができない。
「これは躾なのよ、あなたがいつまでもそんなに醜くて、食べ物を盗むようなクズだから」
「そうよお姉様、あなたがしっかりしないから私が社交界で頑張ってあげてるの。これはその償いよ」
彼女たちはそうやって理不尽な言葉をぶつけ、高笑いしながら去っていく。
大した栄養も取れずに隙間風の入る屋根裏部屋で暮らしているのだから普段から体調のいい日など無いのだが、傷があまりにも酷かったり高熱を出したりした場合は助けを求めざるを得ない。
この家の所有物である私の"存在"が危うくなることは私の罪とされ、普段よりも酷い折檻が待っているからだ。
しかし、そうして呼んだ医者にも義母の息がかかっているためろくな治療をしてくれない。
彼が判断するのは「命に別状があるか」だけであり、死ぬことがないのであれば一切の治療をせず、なんなら下卑た笑みを浮かべながら傷だらけの身体をまさぐって帰って行く。
そうして「大したことがないのに医者を呼ばせた」として躾の時間がやって来るのであった。
まず、食事が用意されない。
使用人棟では、全員が同じ時間に食堂に集まって食事をする。
つまり、個人用の食事の準備というものをしない。
ただでさえ義母の影響で私を馬鹿にしている使用人たちが薄汚れた屋根裏部屋にわざわざ食事を持ってくるわけがなかった。
仕方なくキッチンからこっそりとクズ野菜や加工肉の切れ端などを持ち出して食べている。
見つかれば使用人たちにこっぴどく叱られ、鞭を持った義母がやって来て背中がミミズ腫れだらけになるが、生きるためにはそれしか無かった。
次に、身を清める道具がない。
タオルも櫛の1本も無い屋根裏部屋では、身を清める手段が無かった。
使用人たちですらたまに大浴場で身を清めるというのに、私は夜中に井戸から水を汲んできて濡らした服で身体を擦り、髪を洗うしかない。
当然冬には何度も風邪をひいたし、肌はボロボロに、髪はお母様にそっくりだと褒められた頃の面影など一切残らないごわごわしたものになってしまった。
着るものも使用人の作業着より粗末なワンピースがたった3着、あちこち穴が空いて肌に当たる部分はチクチクする。
16歳になる今ではとうに丈が足りず、服と呼べるかすら怪しい代物である。
どうせ誰も見ていないのは分かっているが、あまりにも惨めでふと泣きそうになってしまう。
義母と妹は週に一度ほど使用人棟を訪れる。
その日はメイドに両腕を掴まれて部屋から引きずり出され、2人に「ああ醜い」「化け物」「できそこない」などと言われながら鞭で打たれ、足蹴にされる。
たいてい使用人たちもニヤニヤと笑いながら集まって来て、一緒になって暴力を振るったり頭から水をかけたりする。
彼女たちは趣味の悪いことにしっかりと服で隠れる部分だけを狙って傷を付けてくる。
憂さ晴らしが済んだ頃には身体中がミミズ腫れと切り傷、青あざでいっぱいになって、その夜は何度寝返りを打っても痛みで眠ることができない。
「これは躾なのよ、あなたがいつまでもそんなに醜くて、食べ物を盗むようなクズだから」
「そうよお姉様、あなたがしっかりしないから私が社交界で頑張ってあげてるの。これはその償いよ」
彼女たちはそうやって理不尽な言葉をぶつけ、高笑いしながら去っていく。
大した栄養も取れずに隙間風の入る屋根裏部屋で暮らしているのだから普段から体調のいい日など無いのだが、傷があまりにも酷かったり高熱を出したりした場合は助けを求めざるを得ない。
この家の所有物である私の"存在"が危うくなることは私の罪とされ、普段よりも酷い折檻が待っているからだ。
しかし、そうして呼んだ医者にも義母の息がかかっているためろくな治療をしてくれない。
彼が判断するのは「命に別状があるか」だけであり、死ぬことがないのであれば一切の治療をせず、なんなら下卑た笑みを浮かべながら傷だらけの身体をまさぐって帰って行く。
そうして「大したことがないのに医者を呼ばせた」として躾の時間がやって来るのであった。
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