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【5th】the first kiss - Take it easy♪

パール姫の冒険V

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(1)
 洞穴の前に移動したパールフェリカとキョウは何やらひそひそと話をしている。そこへリディクディは駆けて戻った。
 後を付いて行こうとする“光盾”長ルトゥの腕をレーニャが止めた。
「ルトゥ、どうするの? セイルが伝える、みんなで探す」
 言葉が足りない分、レーニャの表情は細かい。瞬きの数が少し多い。ルトゥは不安そうなレーニャを見下ろした。
 キョウの尋ね人“ヤマシタミラノ”が見つかったらしい事は、言葉に不自由なレーニャでもわかったのだろう。
 采配をしたのはルトゥだ。
 巨大猪“主”の猟果を持ち帰るのに人数が足りず、王都にいる“光盾”面子をクーニッドに集め、ついでに“ヤマシタミラノ”という人を探す手筈だった。
 ルトゥはちらりとキョウの方を見た。
 話の流れでは初対面だと思われるのに、誰もが雲の上の人として扱うパールフェリカ姫と、既に笑みを交えて話をしている。傍から見ると数年来の友人が再会しているかのようだ。
 ルトゥ自身、キョウといくつか言葉を交わしたのでわかるのだが、きっと彼の持つ親しみやすさがそうさせるのだろう。キョウはにこやかに微笑んだり、相手の言葉をしっかりと受け止めたり、自然な素振りで対人テクニックを駆使して警戒心を抱かせない。
「キョウは……パールフェリカ姫と王都に行くんじゃないかね。あの様子だと。だったら道案内が終わればあたしたちはソイらんところへ戻って獲物をさばく手伝いだね。あたしたちには金がいる。どれもこれも大事な仕事さ。王都から応援が来た時、捜索は終わったって伝えりゃ十分だろーさ」
 再びレーニャに視線を戻す。「そっかそっか」と呟いてにこっと笑っていた。
「さすがルトゥ、あたし、心配いらなかったね」
 ルトゥもニカッと笑ってレーニャの頭をがしがし撫でた。
「ありがと」
 現実の問題として、人間の住む光の大地と呼ばれるこの“アーティア”にモンスターがほとんどやって来なくなっている事はとても厄介だ。
 冒険者の仕事の内、大きな比重を占めるモンスター討伐が減れば則ち“光盾”の収入も大幅減になる。
 ルトゥは“光盾”の長として方々ほうぼうに情報を求めた。
 音沙汰が無く、他にも何か手を打つべきかと考え始めた頃、一つの目撃情報が上がってきた。
 三日前、ルトゥの耳に入ったばかりのとても新しい情報だ。まだ“光盾”の後ろ盾であるネフィリムにも上げていない。
 その情報とは──人型のモンスター集団が丸太を組み合わせた船で“アーティア”に向かって来ていた──というもの。
 船は全部で50を超えており、見つけた漁師は慌てて“アーティア”の対モンスター最前線拠点である北の要所サルア・ウェティスに漁船を戻したという。
 サルア・ウェティスには最強優美の召喚獣ティアマトを召喚する第2位王位継承者シュナヴィッツが詰めているはずで、きっと軍を整えて何とかしてくれる、そう思っての行動だ。
 だがすぐに、海も空も広範囲が光に飲まれた。
 強烈な光に目を灼かれるのではないかと漁師は頭ごと抱え込んで事が止むのを待ったという。
 不思議と波は静かなまま、風も凪いでいたのでひどく不気味だったと漁師は語った。
 数十秒後、光が落ち着いて見上げた空──ずっと高いところに一人の少年が浮かんでいた。
 強烈な光を放つ少年の背には6枚の鳥の羽のような翼が生えていたという。
 少年はふいと風に溶けるように消え、あとには平らな海と静かな青空が残った。
 最初に見たモンスターの大群も、船ごと全て消えていたという。
 漁師は夢でも見たのかと何度も目をこすり確かめたが、凪いだ海が延々と続いているだけだった。
 もし、“アーティア”に渡って来ようとするモンスターが全てその6枚の翼持つ光る少年に消されていたのならば……──良い事ではあるのだが、人に及ぶ被害が減って喜ぶべき事なのだが……ルトゥは下唇を噛む。
 世界でも一、二を争う冒険者集団である“光盾”はまだいい。
 モンスター討伐だけが仕事では無い。
 正規兵の行けない未踏地への探査を高額で請け負えるだけの信頼を既に得ている。
 “光盾”の経験豊富な冒険者たちは非常に優秀だ。正規兵として志願したならば、即刻騎士叙任されるような強力な召喚獣を操る者ばかりが所属している。どのような細々とした仕事でもやってこなせるので、今までの依頼人は変わらず“光盾”を選んでくれるだろう。
 だが、冒険者集団に所属していない者や、細々と活動している冒険者らにとって、今日明日の仕事が急に減っては困窮する。一時的ならばしのげても、ここのところ数は減る一方で、歯止めがかからない。
 街と街を繋ぐ街道に現れては人に仇なす獣“モンスター”の討伐を、冒険者が請け負うのはごく当たり前の景色だった。そうやって路銀を稼いで旅を続けていた冒険者達は今、至る所で足止めを食らっている。
 ルトゥは既にその件についてもネフィリムと話をしている。
 次期国王たるネフィリムは、市井や冒険者間の情報にもきっちりと耳を傾けてくれるので、ついそういった『寂しい気持ち』を愚痴ったのだが──彼はそれらの冒険者達が追い剥ぎや野盗の類に変わる事を危惧していた。その時ルトゥは、自分の『寂しい気持ち』の正体を知った。
 冒険者はモンスターを討伐してきたが、今後は人を、元同業者の野盗を相手にする事になるかもしれない。ネフィリムはそう言ったのだ。
 ルトゥは赤い召喚獣ステュムで大空を駆ける事が何よりも好きだった。
 快活に笑い、酒を好み、女だてらに仲間の荒くれ冒険者の尻を蹴飛ばし、ひっぱ叩いて鼓舞して、モンスターの群れに飛び込んで大暴れする。猟果を競い、大勢で寝食を共にする。皆、気が良い、それを知っている。例え身元が知れなくたって、肩を叩いて笑いあい、危険には手を取り合って戦える。血と汗と、背を庇いあったという信頼。その爽快感はたまらない。
 今だって冒険者崩れという輩が盗人に変わる事がある。まだその数は少ないが、今後増えると予想されている。
 冒険者ギルドというシステムが宿なしの得体の知れない連中をまとめ、仕事を与えていた。しかし、仕事の中核であったモンスター討伐が消えてしまっては──。
 生活に困った時、今は少なくても、今後冒険者らの多くが盗人に、追い剥ぎに、盗賊……人殺しに変わっていくかもしれない。冒険者がそれらを狩る日がくるのかもしれない。かつて背を預け、戦線を駆け抜けて笑いあった冒険者が自分の前に立ちはだかったなら──。
 そう思うとルトゥはつらい。
 様々な人材を抱え、所属人数200人を超える“光盾”はプロフェイブを中心に周辺国のガミカでも長く活動を続けている。
 今、気も良く、村や街、都の人々にも受け入れてもらえている“冒険者”という形だけの身分を、どうにかして守りたい。
 一度でも冒険者の世話になった事のある人々の多くが、危険な冒険から帰還すると笑顔で手を振って喜んで迎えてくれる。それが、“冒険者”が人を襲う野盗の類に堕ちた時、どのように変わっていくのかがルトゥは怖かった。
「──……あたしたちは、他の生き方が出来ないから……」
 ルトゥはぽつりと呟き、作り笑いを浮かべてレーニャの頭を撫でた。
「がんばろう」
「……うん……!」
 “光盾”にとって今最も重要な仕事は“冒険者”の質を守る事、新しい仕事を見つけ出す事……。
 それにはルトゥの最も信頼する仲間であり夫──ガーゴイルに騎乗するセイルを向かわせた。
 既に、ルトゥとセイルが指揮して降りた未踏窟の深奥で見つけた“お宝”の引き上げ作業は始まっているだろう。
 “冒険者”は、まだ人の踏み入っていない大地で未知の資源や存在を引き出す事が出来る。
 ──あたしたちが……“光盾”が証明する。
 未踏窟で見つけたお宝がきっと冒険者の価値を証してくれる。
 中心に二つの影を宿す巨大“クリスタル”が“冒険者”の新しい価値を引き出してくれる──。





(2)
 パールフェリカによる兄ネフィリムとシュナヴィッツがミラノにベタ惚れだという暴露に始まった話は、洞穴の前に着いても続いていた。
 パールフェリカにとって、2人の兄は自慢以外の何ものでもない。
 口にはしないが、容姿、性格、品格、身分のすべてが完璧で、それより上の男は父王しかいないと思っている。そんな兄達を、ミラノはどうして簡単にフッたのかという疑問がパールフェリカには消えずにある。
 いい機会なので、ミラノとは長い付き合いであろう身内のキョウにその疑問を投げかけてみたのだ。が、答えはいたって単純なものだった。
「ミー姉はさぁ、美人だからなぁ」
「キョウだってよく似た顔してるじゃない」
「顔立ちだけの話じゃないよ。それに、ミー姉は面倒臭がりだから、揉め事を嫌がるんだ。俺とは境遇もあんま似てないって事ね。男同士ってそこまで妬み嫉み僻みで嫌がらせ陰口とかないから」
 男は女よりは何らかの形で直接対決する。
 ミラノは、同性からの嫉妬に始まる修羅場が嫌で、兄達をフッたんじゃないかとキョウは言っているらしい。
「……あそこまでっていうのがよくわからないけれど、侍女達見てると……陰口はあるわね」
 パールフェリカは下唇をむんと持ち上げて頷いている。ふっと顔を上げ、隣のキョウを見上げる。
「男同士の陰口っていうのは、あるの?」
「陰口っていうか、あるにはあるけど、場とか相手をわきまえて言うっていうか。元気なヤツには気に食わないって喧嘩ふっかけられた事、あるっちゃあるけど、お前がいなければっつっていきなり殴りかかられた事とかもあるけど、うん、素直っちゃ素直? だよね、男は。行動起こしちゃうから陰口にならないのかな」
「え……キョウ、大丈夫だったの?」
「あー、俺? 兄貴の影響で空手やってたのね、んでまぁ、自分の身を守るくらいなら出来たから、問題なかったかな」
「カラテ?」
「えっと、えー……っと、殴ったり蹴ったり……ん、どう言ったらわかるかな」
「格闘技の一種?」
「そ! そういうの。大会とか……全然だめだったけどね」
 キョウはたははと笑って「本番に弱いの、俺」と付け加えた。
「へぇ~。私、そういうの観るの好きよ。本当のは、怖いけど」
 パールフェリカの言う『本当の』とは、この世界における命の奪い合いになるが、キョウには全くぴんと来ない。
 キョウの話術では、怖いという部分はスルーして好きという部分で反応するのが良いと結論が出ているので触れない。
「格闘技好きな女の子なのかぁ、パールちゃんは。K1とか観るタイプなんだね」
「こう、なんていうのかしら──」
 パールフェリカは手を左右交互に前へパンチを繰り出す形に動かして、続ける。
「──びしっばしっとしたキレのある動きは、とてもカッコイイと思うわ。あとね、筋肉がこう、むきっとなって血管がむはっとする瞬間っていうのかしら──」
 パールフェリカも頭の中では『けーわん?』と疑問を感じているが、自分の言いたいことを優先してスルーしている。
 嬉しそうに筋肉の話をし始めたパールフェリカを、キョウはにこにこしながら見守り、うんうんと言って頷く。時々「へぇ~」やら「そうなんだ」、「それで?」と相槌を入れて聞いている。
 紆余曲折を経て、語りたいだけ語ったパールフェリカはやっとはたと気付く。
「そういえば、喧嘩して、怪我とかしなかった? キョウ」
 思い出したかのように話題を戻して、形だけの心配をするパールフェリカ。
「え、ああ、喧嘩の話?」
 突然話が戻っても、キョウはにっこり笑みを浮かべて一つ頷いた。
「何もふっかけられた喧嘩全部受けてないから。適当に謝って──女の子の情報とか流したり? 我が身可愛さで俺って酷いよね!」
 謝る気がないのに謝って見せるのはさっきミラノの前でやった。
「何それ?」
「処世術だよ、パールちゃん」
「ふーん」
 何だか男らしくないわね、という言葉をパールフェリカは飲み込んだ。
「結構欠点満載な俺と違ってさ、ミー姉は、嫌味なくらい美人で、クールだし? モデル級のナイスプロポーションだし? 何の香水使ってんだかしらないけどいい匂いだし、キスも上手いらしいから──」
「え!? なんで?? なんでキョウがキス上手いかどうかとか知ってるの!?」
「──あ……」
 弟視点による姉の長所を順に並べてしゃべっていたせいで、つい十代前半の女の子の前で口に出すべきではない単語を言ってしまった。キョウはちょろっと出した舌を噛んだ。
 ついぽろっと出てしまった言葉だが、頭の隅で空手は通じないのにキスは通じるのかと、キョウはメモった。
「えーっと、ね。あー……」
 パールフェリカは顎の下辺りで両手で拳を作り、期待に目をキラキラさせてキョウを見上げている。
 キョウは慌てて目線を上に逸らした。
 ──うわ。これ逃げらんなそう……でもなぁ、しゃべったのバレたらミー姉が怖いしなぁ……。
 迷いつつも、真剣な蒼い眼差しからへ言い抜け出来そうにないとキョウは覚悟した。
「あー、あのね……ミー姉の昔の彼氏さんがさ、別れたくないけど幸せに出来そうにないから別れなきゃいけない気がするって、弟の俺に相談してきた事があって」
「うんうん!」
 前のめりでパールフェリカは頷いてくる。キョウはこっそりと、お姫様でも恋愛話って好きなのかと感じつつ、苦笑いを隠した。
「そん時に、でもあのキスが出来なくなるのはイヤだー! って酒飲んだ勢いだと思うけど、大して飲んで無かったけど、ファミレス中に響く声で叫んでたんどよね。それでとんだけ上手いんだよと──」
「それはもう別れた相手なのね。ふむふむ──」
「一番最近別れた椎名さんはめっちゃ落ち込んでたなぁ。カナダだったかな、転勤決まって、ミー姉を連れて行けるだけの甲斐性が自分には無いっつって。やっぱ椎名さんもミー姉を幸せに、楽しい時間を一緒に過ごしていける自信が無いつってさ、6年も付き合ってたのにさ、理由ひねり出して別れたんだけど。やっぱ最後悩んでたのは、キスが出来なくなるって事だったんだよなぁ。雰囲気のいいクールなバーだよ? いくら酒入ってるからってその理由でわんわん泣き出されちゃ、俺たまんないっつーの」
 そう言ってキョウははぁと溜息を吐き出した。反してパールフェリカは意気揚々と「それももう別れた相手なのね」と頷いていた。
「あ……──待って。待って、パールちゃん」
 キョウの顔がさっと情けないものに変わった。
「椎名さんの話、ミー姉知らないよ。パールちゃん、ミー姉には黙ってて」
「え? 今の話?」
「うん、黙っててくれる?」
「ええ、いいわよ。で、キョウはキスしたことってあるの??」
 あっさり承諾して、交換条件のようにパールフェリカは問う。
「え? 何? 俺の話もするの?? パールちゃんどうしたの? 興味津々?」
 そう言ってキョウは困ったように笑った。パールフェリカは拳に力を込める。
「だって! こんな話、城の誰とも出来ないんだもの!」
 そもそもガミカでは14歳未満の男女の恋愛を禁じている。
 ガミカの医療技術では14歳未満の妊娠出産を支えきれないというのが最大の理由だ。自然、14歳未満の少年少女が恋話を口にする事は、控えるべきとする風潮が生まれた。
 パールフェリカはお姫様という身分から侍女らともあまり砕けた話は出来ない。その上まだ13歳で、侍女らのそういう話題に割って入ろうとしても逃げられてしまうのだ。
「うーん」
「ね、どうなの!?」
 苦笑いで渋るキョウに食い下がるパールフェリカ。
「俺~? 俺の話とか、つまんないよ」
「教えてくれないの? ミラノの話は教えてくれたのに?」
 きらきらした蒼い瞳はほんのりと潤んで、白い肌さえ真珠のように日陰でも光を放って見える。
 外国人美少女のおねだりに、キョウはうーんと唸った。
 ──この子、脅してる。可愛さに訴えつつ、話すぞバラすぞって脅してる……。
 ネフィリムやシュナヴィッツが長年気付かなかったパールフェリカの仔狸っぷりをさらりと見抜きつつも、キョウはうーーんと唸る。
 結局、可愛さと脅し、両方に負けた。
「いや~~もうさ~、正直ね、俺のファーストキスってね、男! 結構この女顔で悲惨な目にあっ──」
「えええぇぇ!? お、男、キョウ、男なのに、男としたの!?」
「もうね……俺その辺トラウマだから。ね、パールちゃん、勘弁して」
 眉尻をぎゅーっと下げ、キョウは苦い顔をしている。それでも口元はほんのり笑みの形を浮かべているキョウをパールフェリカは見た。
 正直なところ、ポカンとした。
「…………」
 パールフェリカは下を向いてゆったりと口角を上げ、ふふふと声を出して笑った。
 たくさん話してくれたキョウに、話したくない事もあっただろうに、物凄く近い距離でずっと話してくれた事に、くすぐったいぐらいの優しさを感じたのだ。
 ──なんだ、やっぱり似てるんじゃない。
「え? 何? どこがおかしかった? 男としたの、おかしい話じゃないでしょ? ねぇ、聞いといてさ、慰めてよ~」
 半笑いで言うキョウに、パールフェリカはくすくすと笑って、返事が出来なかった。



(3)
 クーニッドの南東に位置するこのフラスト洞穴は、大昔に誰か──数百人規模の集団──が住んでいたと思わせる小部屋や上下を貫く空気穴など多数の工夫が垣間見えた。
 とはいえ、10年20年、100年や200年前のものとは思われない侵食によって岩壁のエッジはなくなっている。よく調べて回らなければ、ぼこぼこ規則的な穴の空いた洞穴という印象だけで終わる。自然界にあるものと見逃してしまいかねない。
 このフラスト洞穴、実はよりクーニッドに近いトゥーレン旧地下坑道と地下で繋がっていた。“光盾”がモンスターの住み処となって久しいトゥーレン旧地下坑道踏破後に発見した場所で、フラスト洞穴という名はその時に付いた。もちろん“光盾”は命名権も売っぱらっていたので、命名は金の余った輩による。
 トゥーレン旧地下坑道側の入り口付近は易しいが、奥は危険が多い。
 パールフェリカの見聞にはフラスト洞穴側から入る事になった。
 山の絶壁にある入口へは飛翔系召喚獣でなければ来ることが出来ない。
 パールフェリカ本人や護衛のエステリオ、リディクディは飛翔系召喚獣を召喚するので問題ないが、お忍びについてまわる王都警備隊など、彼らには飛翔系召喚獣はない。モンスターの襲撃が減ったと言ってもゼロになったわけではない。姫の気分一つで多くない飛翔系召喚獣を迂闊に動かす事は出来ない。そこで、パールフェリカの案内役は最初にここを発見し、ネフィリムからの信頼も篤い“光盾”にお鉢が回ったのだ。
「姫、よろしいですか?」
 リディクディが声をかけてやっと、キョウと談笑していたパールフェリカは笑いをおさめて一つ頷いた。
 ゆっくりと振り返って“光盾”の二人を見る。
 両手をへそより少し下で組み、姿勢を正す。両方の口角を同じだけ持ち上げ、笑みを浮かべた。
「足手まといにならないよう気をつけますが、何かある時には頼りにしています。よろしく、頼みます」
「──必ず、お守りします」
 “光盾”長ルトゥが力強く言い、一行は洞穴へと降りる。


 先頭は、肩に小さいステュムを乗せたルトゥ。赤い召喚獣ステュムは揺れる肩の上で翼を前後に動かして座る位置を探している。
 その後ろにエステリオ。既に荷物から松明を3本出し、手早く召喚霊サラマンダーを召喚して火をつけさせていた。召喚霊は例外を除いて数秒から数十秒しか召喚出来ず、ずっと連れては歩けない。松明を持ち込んだ理由だ。
 1本をルトゥに、1本をリディクディに、残りを自分で持った。
 次にキョウとパールフェリカがほとんど横並びに入る。
 レーニャが軽い足取りで2人のすぐ後ろを追い、最後にリディクディが入った。
 レーニャもルトゥと同じように、召喚獣カトブレパスを手の平に乗るサイズで召喚して肩に乗せている。
 “光盾”では、即戦闘可能な召喚獣を召喚出来る者は、探査など危険が少しでも伴なう場所では召喚したまま入る。罠外しは得意だが身を守るのは苦手、そういう者を守る為だ。老若男女関係無く、能力次第で役回りが決まる。
 “光盾”で三大火力として数えられるのがストゥム、カトブレパス、ガーゴイル。レーニャはまだ10代前半の少女だが、“光盾”の中では最重要戦力、一目置かれた存在だ。ルトゥと共にあちこち難度の高い場所に行き、強力なモンスターとの戦闘を繰り返して場数をこなしている。レーニャにはそこらの年長の召喚士や慣れた冒険者でも歯が立たない。
 なお、ソイ、オルカ、コルレオのペガサスを召喚する三者は、召喚術を除いた総合能力──対人、対召喚獣、対モンスター、対アンラッキーへの対処能力──が優れていて、つまり幸運すぎる程幸運で、確かに実力もあるのだが、勢いだけでも突き進める馬鹿集団ということで“光盾”の中でも世界に名を轟かせている。
 通路は2人が並ぶとやや狭い程度で、キョウとパールフェリカ以外は一列で歩いた。
 既に何度も調査隊が入っているので、壁には手すり代わりのロープが張られている。足元にはごろごろとした石が転がっているので、ロープを手に先へ進む。
 快晴の空を飛び、日陰にしばらく居たとはいえ、目はまだ慣れない。
 3本の松明が照らしているが、薄暗く、足元はほとんど見えていないまま。つま先をずるずると押しだしつつ、一歩一歩前へ進む。
 靴の裏を尖った石ころが刺して突き破るのではないかと心配になる。その分前へ進む速度も遅くなった。それが下り坂になると、負担はさらに大きくなる。
 洞穴に入ってすぐは「わーまっくらー!」などとはしゃいでいたパールフェリカは、以前“飛槍”の洞窟のような拠点に連れて行かれた時の“うさぎのぬいぐるみ”の大活躍などを元気一杯しゃべっていた。だが、生前のユニコーンを死なせてしまう事になった地下通路の話はせず、ついには完全に黙ってしまった。
「──てかさ、パールちゃん、何でこんな洞窟来たいと思ったの?」
 しばらく皆、黙々と歩いていたが、キョウが口を開いた。
「え?」
「ん? いや、なんか、ねぇ、女の子が来たがるトコロじゃないかなって思ったから」
 パールフェリカが斜め前のキョウを見上げると、後ろ寄りの横顔が見えた。ほんのりと笑っている。
 正直なところ、城の中を走りまわっちゃ国内騎士憧れの護衛騎士たるエステリオを振り回して振り切っているパールフェリカでも、慣れないデコボコした地面には苦戦して息が上がっていた。なのに、キョウは笑っている。
 ──キョウったら見た目より体力あるのかしら。
「見たかったのよ。城の近くにはこういうところ無いし」
 額に浮き上がっていた汗を左袖で拭いつつ、パールフェリカは答えた。
「無いし?」
「え? んー、無いから、見てみたいなって思ったのよ」
 もし今後、ガミカ王女として誰かと婚約が決まり、結婚という段取りになったら──大人になってゆけば、パールフェリカはますます外に出られなくなる。まだ制約の少ない間に見れる限りを見、出来る限りの経験を積みたいと思った。“自分”を捕まえたい、価値を見い出したいと思ったのだ。それが、ミラノと沢山話して決めたパールフェリカの当面の目標……。
「へぇ~」
 相槌を打ちつつ、キョウは段差をぴょいと飛び降りた。
 パールフェリカの肩くらいありそうな段差だ。パールフェリカは後ろのリディクディをちらりと見て支えてもらおうとした。が、その前に正面から手が伸びてきた。
「はい」
 キョウの左手だ。
 右手は壁に固定して、両足を踏ん張っている。パールフェリカはその手を取って、ひょいと飛び降りた。
 その着地の時、靴の裏の複数の砂利が転がった。
「うぅ──わっ……!」
 足が前へ流れて転びそうになる。パールフェリカは慌てて目の前のキョウのズボンを引っ掴んだ。するとキョウもバランスを崩す。粘ったキョウはぎりぎり半身をひねるだけで済んだ。
 が、キョウのジーパンは緩めのベルトで腰履きしているきすぎない。パールフェリカの体重に耐えきれず簡単にズリ下がり──松明の灯りの中で、半ケツを晒した。
「お、っとぅ……」
「あ……あの、ごめん……なさい?」
 目の前の半ケツに謝るパールフェリカ。足はもう滑り止まっている。
「ふ、ふははは、パールちゃん立って、立って!」
 誤魔化すように低く笑うキョウの気持ち悪い様子に、パールフェリカは急いで手を離した。一旦地面に手をついて立ち上がる。
「本当、ごめんなさい」
「いやいやもう、謝んないで! パールちゃんならオッケェだからさ!」
 言いながらキョウはジーンズを引っ張り上げ、ベルトの穴を一つ詰めた。
「これがね、男にやられたら俺全力で蹴倒しちゃうけどね!」
「え?」
 立ち上がったパールフェリカは改めてキョウを見上げた。
「あ~、いや」
 キョウの表情からは、怒っているのか笑っているのかわからない気味の悪い様子は消え、元の爽やかな笑みを浮かべている。
「怪我無い?」
 松明の灯りの中、パールフェリカの両手から両足、全身を簡単に眺めるキョウ。
 パールフェリカもまたキョウを見上げる。
「……無いわ」
「なら良かった」
 ほっと息を吐き出した後、「男の半ケツなんてほんとつまんないんだから……」と小さな声で呟くキョウ。
「え?」
「え? 何? 俺なんか言った?」
「…………」
 パールフェリカは小さく首を左右に振る。確かに聞こえたのだが「うん」とも言えなかった。
「……いやもう、前じゃなくて良かったよ……」
 ポツリと、キョウがまた小さな声で呟いた。
「…………」
 今度も独り言だろうとパールフェリカは返事をしなかった。
 ──……キョウって……表情わかりやすいけど、考えてる事口から出るみたいだけど、ほんとのとこ何考えてるのか全然わからない……。
 狸の兄ネフィリムさえかわす仔狸パールフェリカでも、キョウという人間の中身が掴めなかった。
 なまじ、ミラノの弟という先入観があるせいかもしれない。パールフェリカは切り離して考えた方がいいのかなと首を捻った。
 その時だった。
「──伏せて!」
 エステリオの鋭い声が飛んだ。
 突然の事でパールフェリカはエステリオの顔を探したが、その頭をキョウが抑えてしゃがみ込んだ。
 ほぼ同時、大量の羽ばたきが大音響で耳をついた。
 頭上を真っ黒の小さな塊が入り口の方へ津波のように流れていく。数が多い。
 パールフェリカは押し込まれた頭を持ち上げ、塊が何なのか見極めようとする。だが、その前に赤い何かが広がって視界を遮った。
 持ち上げていたパールフェリカの顔の前に、キョウの半身と腕が回りこんできた。
「パールちゃん、頭下げて」
「え? 何??」
 羽ばたきの音は大きく、キョウの声をうまく聞き取れなかった。
「──たぶん、蝙蝠!」
 頭を下げるよう言われながら、パールフェリカは再び視線を上げた。
 頭上を覆うのは赤い召喚獣ステュムの翼だった。瞬時に巨大化して6人の頭上に羽を伸ばし、庇ってくれているのだ。
 進行方向、洞穴の奥から羽音は溢れてきている。
 前を見れば、ステュムの懐に飛び込んできそうな黒い塊──蝙蝠をエステリオとルトゥが手に持った松明で追いやっている。
 目線を落とせば、突然巨大化したステュムの翼に激突でもしたのか、気を失ったらしい蝙蝠が落ちていた。思っていたよりも大きく、翼が鋭い。翼を除いた体全体で人の頭程の大きさがある。
「頭下げて」
 もう一度聞こえたキョウの声は、静かながら強制力を含んでいた。
 近くのキョウの顔を見上げる前に、眼前の彼の肩がどんと揺れたのがわかった。エステリオらの間をすり抜けた蝙蝠がキョウの肩をかすめるようにぶつかり、上へ抜けて、ステュムの翼の下スレスレをよろよろと飛んでいった。
「キョ……」
 声を全部出す前に、パールフェリカの頭は無理矢理押し下げられた。緊急時でなければ無礼極まりない。
 視界も下がり、キョウの腿の間におさまった自分の足下を見た。
「ぶつかるなんてさ、間抜けな蝙蝠だよねぇ……──大丈夫、きっとすぐ止むよ」
 頭上から聞こえたキョウの声は、さっきの不気味な笑い声の主とは思えない、軽やかなリズムのある柔らかいものだった。


 羽音が完全に止み、蝙蝠がぜんぶ外へ飛び出してしまってから、ルトゥはストュムを元の大きさに戻した。
 ルトゥがここを訪れたのは初めてではない。
 通路こそ狭いが奥は長く広い事を知っている。蝙蝠は奥の広い場所に生息しているらしいとパールフェリカらに教えた。さらにルトゥは目を細め「昼間に外へ出る事なんてないのにさ」と付け加えた。
 全員が立ち上がった後、前に居たルトゥとエステリオ、キョウの衣服がところどころ裂けているのがパールフェリカには見えた。蝙蝠の翼が当たったらしい。
 後ろ、段差の上に居たリディクディとレーニャは、むしろステュムの翼で地面に押し倒され、そのまま頭を地面に付けていた。じっと行き過ぎるのを待っていた事もあってほとんど無傷だ。
 蝙蝠は、パールフェリカとキョウの後ろの段差にぶつかって気を失って転がるか、リディクディらと翼の間をちゃんと通り抜けたかのどちらからしい。
 パールフェリカは小さく息を吐いて足元に白い魔法陣を広げた。
 松明よりも眩い光が洞穴に広がる。
 ぎゅるっと回転した魔法陣から、飛んできた時の半分程の大きさのユニコーンが召喚された。
 顔をぶるぶるっと左右に振って、ユニコーンはパールフェリカに頬を摺り寄せた。
「うおお! これユニコーンだよね! え? あ、そっか! “召喚獣”……へぇ……へぇ~……そういうモノか!」
 キョウを見やれば、肩辺りが破けた半袖シャツの下、ほんのりと血が滲んでいるのがわかった。
 観察するパールフェリカをよそに、キョウはユニコーンに感心するばかりで「痛い」とか蝙蝠へのネガティブな発言を一つも言わない。
 ──そういうところ、似てるのね。
 パールフェリカはユニコーンの頬をそっと撫で、その角をキョウやエステリオ、ルトゥに向かわせた。
 淡い薄桃色の光が、ユニコーンの額の角からふわふわと漂い、彼らの傷へと飛び込んだ。傷は光を吸ってじわじわ浸透すると跡形もなく消え去った。
 世界で唯一“治癒の力”を授けられた幻獣ユニコーン。それがパールフェリカの召喚獣だ。
 両方の口角が下がってしまいそうなのを、パールフェリカは俯いて堪えた。


 謎の蝙蝠の群れとの遭遇以降、完全に黙ってしまったパールフェリカと5人は、もくもくと下り坂を降りた。そこからしばらく真っ直ぐの道を歩いて、開けた場所に出た。
 ──地底湖だ。
 それを松明の灯りだけで眺め、再び来た道を戻った。
 何ヶ月も見たいとだだをこねたはずのパールフェリカだが、神秘的ですらある地底の大きな空間と溜まった地下水で出来た湖を前にして、初めて見るというのにぼんやりとしていた。
 ほとんど目に入っていなかった。
 どこからか吹き込む涼やかな風も、水の跳ねる高い音も、パールフェリカにとってとても珍しい光景だったにもかかわらず、記憶に残らなかった。
 パールフェリカはただただ、早く城に、自分の部屋に帰りたかった。
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