華散るその時まで

碧月 晶

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38「3」

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「んー、だからぁ、ロウくんは凄いんだよー。料理も出来るしー、洗濯だってできるし、おれの助手だって出来ちゃうんだよー?」
「ヤナギ、飲み過ぎだ。その辺にしとけ」
「やだー!まだ飲むのー!」
「弱いくせに…」

手慣れた様子で甲斐甲斐しくヤナギの世話をしているロウの姿に、いつものことなのだろうなと思いながら、どこか微笑ましい気持ちで酒を呷る。

「そういえば、ラルフは酒は好きかい?」
「好きか嫌いかっていうと好きだな」

アルコールには強い方で、今まで悪酔いした事は一度も無い。

「そうか、私も強い方だが…いつか飲み比べでもしてみるかい?」
「そりゃいいな」
「あーイチャイチャしてるー!」
「はあ!?し、してねえよっ」
「なにー?照れてるの?かぁわいいなーラルフくんは」

こんな見た目だが、年上の余裕という奴だろうか。頭を無造作に撫でられているのに、悪い気がしない。

そのまま暫くされるがままになっていると、二つの手が両サイドから止めに入った。

「ヤナギ、そこまでにしとけ」
「そうだよ、ヤナギ。ラルフは私の伴侶という事を忘れてはいないかい?」
「んー、そっかそっか。焼き餅やいちゃったか!かぁわいいなーロウくんはー!」

「よーしよし」とまるで犬を撫でるかのように今度はロウの頭を撫でくり始めたヤナギを横目に、エドの方へと向き直る。

「…妬くなよ。友達なんだろ」
「それは無理というものだよ。私はどうやら独占欲が強かったらしい。自分でも驚いているけれどね」
「…言ってろ」

茶目っ気たっぷりなウィンクを返され、柄にもなく照れてしまう。

そうして、また酒を飲んでいると、ロウを構い倒したヤナギがこちらに向いて唐突に話を切り出した。

「そういやあの子はどうしたの?」
「あの子?」

思わず、そう返すとヤナギはにこやかに答えた。

「そう、あの子。確か…40年ぐらい前じゃなかったかなー?ウィルが極東の島国の…何ていったっけ?まあそこにいた頃だから。公園で会った子がいて、凄いお腹鳴ってたーって」
「…え?」
「んで、そうそう。その子が珍しいその国固有の狼の獣人で、眼が月みたいに綺麗だったって言ってたじゃん」
「ヤナギ、それは──」

ヤナギの言葉に奥底に燻っていた記憶が蘇っていく。

『君は…綺麗な眼をしているね』

「あの時のウィルったら、帰って来てからもずーっと月ばっかり見てて、まるで」

『まるで───お月様のようだね』

「月に恋でもしてるみたいだったなー」

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