華散るその時まで

３４

「それは、オレにとってマズい契約なのか？」
「…………」
「何だよ、はっきり言え……痛ッ」

体を起こそうとして、体中に激痛が走る。

「ああ、駄目だよまだ起きちゃ。『狂化』の反動がまだ残っているはずだ」

狂化？

「…そういや、あん時アイツに何をされたんだ？」
「あれは…『狂化』の言霊と言って、簡単に言えば相手の自我を奪って操ったり自滅させたりする禁忌の魔法の一つだ。掛けられたら最後、自力で解く事が出来ないし、『隷属の首輪』に支配される」

禁忌…って、よくそんなの掛けられて無事だったな、オレ。

「で、オレはどうなったんだ」
「……解くには掛けた魔法使いにさせるか、それよりも強い言霊で解除するしかない。でも、あの時君は掛けた本人であるロンデルの言霊が効いていないようだった」

という事は、ロンデルよりも強い魔法を使うしかない、という事。

「じゃあ、その強い魔法ってのが…」
「畢生ひっせいの契約だ」
「…具体的にはどういう魔法なんだよ」
「それは…」

そう問いかけると、途端に口ごもるエドに又もや首を傾げる。

じっと見つめている事数十秒、やっとエドは観念したように口を開いた。

「…『畢生の契約』は契約主の魂に対象者の魂を結び付ける魔法だ。結び付けられた魂は契約主の『寿命』に左右される」
「…………」

つまり…エドが死ねば

「オレも一緒に…？」

こくりと、エドは頷いた。

「禁忌の魔法は術者の魔力を根こそぎ、場合によっては命を使って行使されるが故にそれだけで強力だ。それ以上の魔法で上書きするとなると…」
「『畢生の契約』しかなかったって訳か…？」
「…ああ」
「それって…」
「どんな苦言でも受け入れる。本当に申し訳ない。だけど、これだけは信じて欲しい。私は後悔などしていない。いや、しない」

頭を下げるエドを見ながら、オレは…

「───ッ」
「…ラルフ？」

泣いていた。

「す、すまないラルフ。ああ、泣かないでくれ」
「ち、ちがっ、これは…」
「？　違う？」
「…………って、思ったんだ」
「え？」

聞き間違いかとポカンとした顔をするエドに、無性に腹が立って、オレは気が付いた時には自棄になって大声で叫んでいた。

「『嬉しい』って言ったんだよ！」