華散るその時まで

３０

「………！　急げ！！」

深夜、また意識が落ちていたのか、急くような荒声で目を覚ます。

一体何だとゆっくりと視線を扉に向けたその時、慌ただしくガチャガチャと錠を外す音がし、ロンデルと二人の大男が入ってきた。

「もたもたするな！さっさと運べ！」

ジャラジャラとオレの体を拘束していた鎖が解かれていく。そして、ぐったりとして動かないオレを片方の大男が肩に担ぐと、顔にあの『香り』がするマスク型の拘束具を着けさせられた。

より一層鼻元に近くなった『香り』に頭がぼうっとする中で、ロンデルの怒鳴り散らす声を聞く。

「くそっくそ！あいつめ！白銀だかなんだか知らないが、ジジイのくせしてデカい面しやがって！なぁにが保護法だ！僕のコレクションだ！奪われてたまるものか！」

ブツブツとほざくロンデルの独り言からは一体今なにが起こっているのか状況が分からない。

だが、ここまでロンデルが焦っているという事は彼にとって都合が悪い事が起きたのだろう。

「チッ、時間がない！　…仕方ない、他のコレクションは捨てるか。おい、お前たち！さっさと運べ！」

お前たち、と呼ばれた男たちは皆一様に覇気のない目をしていた。にも関わらず、動きは俊敏。

…様子がおかしい？

そして気が付いた。彼らは皆『獣人』で、ロンデルの『ブルート』に操られているのだと。

「このノロマ共が！早くしないか！」
「…そんなに急いで、どこへ行くつもりかな？」
「！！」

落ち着いた、けれどどこか冷たい怒気を孕んだ声。

その声に、ロンデルは肩を飛び上がらせた。

「お、お前は…！」

コツコツと、靴音だけが静寂のなか鳴り響く。

「『白銀』の…っ」

影から現したその姿は、美しい程に月光に縁どられていた。