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29 sideラルフ
しおりを挟む『…君は、とても綺麗な眼をしているね』
いつか、エドがオレに言った言葉。だけど、オレは前にどこかでこの言葉を聞いたような気がする。
…どこでだっただろうか。
…そうだ。オレがまだ子供の頃だ。
まだ父親がいたあの頃、貧乏な事もあってオレはいつも腹を空かせている子供だった。
そして、いつものように公園で父親の仕事が終わるのを待っていた時だった。
『…お腹が減っているのかい?』
誰かに話し掛けられたがあまりの空腹に視線を上げる事すら億劫で。
腹は鳴っているのに、なかなか視線を合わせない子供を不思議に思ったのか、その人──男性はオレの目を覗き込むように屈んだ。
『君は…綺麗な眼をしているね』
そう言った男性の顔はモヤモヤとしていて思い出せないが、何だか冬空の太陽の下でキラキラしていて、まるでお星さまのようだと思った事を覚えている。
『まるで───』
この時、この人は何て言ったんだったか。確か…
『………のようだね』
…駄目だ。これ以上どうしても思い出せない。
「………ん」
目が覚めると、そこは気絶する前に見た部屋とは違う部屋だった。
相変わらず『香り』は充満しているし鎖に繋がれているが、部屋の間取りが違った。気絶していた間に移動させられたようだ。
今度の部屋は窓があった。明かり取りの小さな窓。そこから満月が見えた。
…月は嫌いだ。月は俺の醜い姿を照らし出してしまう。こんな姿、エドにだけは見られたくない。
エドがまだオレが半獣だと知らないのが唯一の救いだ。
…だからだろうか。あまり逃げ出そうという気概が起きないのは。
勿論好き好んであんな奴に痛め付けられるのが趣味な訳ではない。
けれど、もし逃られたとして、あいつが真っ先に逃亡先として疑うのはエドだろう。ロンデルの事はよく知らないが、獣人を買い殺す趣味を持っている人間なんて大抵金持ちだ。それくらいの事を調べるなんて造作もない事だろう。
…それでは困るのだ。
エドなら探られていると気付くのにそう時間は掛からないはずだ。そして、何故探られているのかと追究した先にオレがここに監禁されていた事を突き止めるだろう。
そうなれば、エドの事だ。オレを…いや『保護対象』を助けようと動き出すはず。そしてロンデルを追及し知るだろう。オレが『半獣』だという事を。
…決してロンデルを擁護する訳ではない。ただ、オレにはどうしようもないだけだ。
ロンデルの事だ。その内オレは衰弱死か禄でもない末路を辿るだろう。
それでいい。それがいい。
エドに知られるくらいなら、せめて死んだ後が良いから。
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