26 / 43
26 sideラルフ
しおりを挟む
天涯孤独というものになったのは、まだ十代半ばを過ぎたばかりの頃だったと思う。
東洋人だった父は、いわゆる人狼という種族だった。そんな世間一般では架空でファンタジーな存在の父と結婚した強者が、人間で西洋人だった母だ。
物心ついた頃には既に母の姿はなく、写真の一枚すら無かったため顔も知らない。
ただ、父曰く、俺の顔立ちは母とよく似ているそうだ。
父と二人の生活は、充実した日々だったと思う。
けれど、ある日を境に、父も帰らぬ人になった。
トラックから子供をかばっての事故だった。
困惑の中、これからは一人で生きていかなければならないのだという事だけは理解した。
着る物も食べる物も住む所も、全てに金が掛かる。だからあの頃は睡眠以外のほぼ全ての時間を金のために費やした。
そうして生きていたある日の夜、懐かしい夢を見た。
まだ父がいた頃、父はよく俺を膝に乗せて絵本を読んでくれた。その中でも一番印象に残っているのは、確か、狼と赤い被り物がお気に入りの女の子の物語。タイトルは…何だったか。
他にも色々読んで貰ったような記憶もあるがよく覚えていない。
そんなうろ覚えの記憶の中でもそれだけは覚えていたのは、きっとあの時抱いた疑問のせいだろう。
『おおかみはどうしていつもひどいめにあうの?』
その疑問の答えを尋ねた時、父は何と答えたんだったろうか。困ったように笑っていたのは覚えているのに、それだけが思い出せない。
「おっはよう。よく寝ていたね。というか気絶してた?」
「………」
目覚め一発目から癪に障る顔を間近で見てしまい、思わず顔をしかめる。
「あは、しかめっ面も可愛いね」
「………」
無視をきめこむ。この手の輩は反応を返せば喜ぶだけだ。
「あれえ、無視するの?ま、いいけどね。これから君の『特別な姿』が拝めるんだし?」
その言葉に、とある事を思い出し、はっとする。
「今夜はま・ん・げ・つだよ?いやー、楽しみだねぇ。君の半獣の姿」
「…っ」
「しかも人狼だよ?それもハーフ!君が生まれてきたのはきっと僕に可愛がられるためだったんだよ」
『半獣』──それは獣人と人間との間に稀に生まれてくる存在。
通常、獣人と人間との間の子は半分の格率で獣人が生まれる。
そして獣人は『人の姿』か『獣の姿』になる事ができる。
だが、『半獣』は文字通り獣人にも人間にも馴染めない『半端者』で、『獣の姿』になる事ができない。代わりに獣の耳と尻尾が生えるだけの半端な姿にしかなる事ができず、中でも人狼の半獣は満月の夜、その姿になる事を制御出来ない。
「…! う、あ」
その時だった。ドクンと一際大きな脈が打ち、その時が来たのだと全身で察知する。
「きたー!」
耳が、尾骶骨が熱い。形が変わっていくのが分かる。
「おー、すごーい!」
「………っ」
ギリッと歯を喰いしばる。鎖に繋がれて、半獣に…大嫌いな姿になる瞬間を見られて………気分は最悪だった。
「じゃ、再開しよっか」
鞭を片手に下卑た嗤いを浮かべて近付いてくる。
「今夜はこれからだよ」
…月なんて、大っ嫌いだ。
東洋人だった父は、いわゆる人狼という種族だった。そんな世間一般では架空でファンタジーな存在の父と結婚した強者が、人間で西洋人だった母だ。
物心ついた頃には既に母の姿はなく、写真の一枚すら無かったため顔も知らない。
ただ、父曰く、俺の顔立ちは母とよく似ているそうだ。
父と二人の生活は、充実した日々だったと思う。
けれど、ある日を境に、父も帰らぬ人になった。
トラックから子供をかばっての事故だった。
困惑の中、これからは一人で生きていかなければならないのだという事だけは理解した。
着る物も食べる物も住む所も、全てに金が掛かる。だからあの頃は睡眠以外のほぼ全ての時間を金のために費やした。
そうして生きていたある日の夜、懐かしい夢を見た。
まだ父がいた頃、父はよく俺を膝に乗せて絵本を読んでくれた。その中でも一番印象に残っているのは、確か、狼と赤い被り物がお気に入りの女の子の物語。タイトルは…何だったか。
他にも色々読んで貰ったような記憶もあるがよく覚えていない。
そんなうろ覚えの記憶の中でもそれだけは覚えていたのは、きっとあの時抱いた疑問のせいだろう。
『おおかみはどうしていつもひどいめにあうの?』
その疑問の答えを尋ねた時、父は何と答えたんだったろうか。困ったように笑っていたのは覚えているのに、それだけが思い出せない。
「おっはよう。よく寝ていたね。というか気絶してた?」
「………」
目覚め一発目から癪に障る顔を間近で見てしまい、思わず顔をしかめる。
「あは、しかめっ面も可愛いね」
「………」
無視をきめこむ。この手の輩は反応を返せば喜ぶだけだ。
「あれえ、無視するの?ま、いいけどね。これから君の『特別な姿』が拝めるんだし?」
その言葉に、とある事を思い出し、はっとする。
「今夜はま・ん・げ・つだよ?いやー、楽しみだねぇ。君の半獣の姿」
「…っ」
「しかも人狼だよ?それもハーフ!君が生まれてきたのはきっと僕に可愛がられるためだったんだよ」
『半獣』──それは獣人と人間との間に稀に生まれてくる存在。
通常、獣人と人間との間の子は半分の格率で獣人が生まれる。
そして獣人は『人の姿』か『獣の姿』になる事ができる。
だが、『半獣』は文字通り獣人にも人間にも馴染めない『半端者』で、『獣の姿』になる事ができない。代わりに獣の耳と尻尾が生えるだけの半端な姿にしかなる事ができず、中でも人狼の半獣は満月の夜、その姿になる事を制御出来ない。
「…! う、あ」
その時だった。ドクンと一際大きな脈が打ち、その時が来たのだと全身で察知する。
「きたー!」
耳が、尾骶骨が熱い。形が変わっていくのが分かる。
「おー、すごーい!」
「………っ」
ギリッと歯を喰いしばる。鎖に繋がれて、半獣に…大嫌いな姿になる瞬間を見られて………気分は最悪だった。
「じゃ、再開しよっか」
鞭を片手に下卑た嗤いを浮かべて近付いてくる。
「今夜はこれからだよ」
…月なんて、大っ嫌いだ。
10
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる