華散るその時まで

碧月 晶

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「ただいま」

帰りがけに降ってきた雪を払い落としながら、玄関でそう呟く。数日ぶりの我が家だ。

返事は…いつも通り帰って来なかった。…が、その日は嫌な予感がした。

「…ラルフ?ラルフ!」

部屋という部屋を見回ったが、その姿はどこにも無かった。

「これは…」

いつも二人で食事をとっていたテーブルの上に、一枚の紙が置かれていた。

『世話になった』

紙には短くそれだけが綴られていた。

「…っ!」

彼は、この家を出て行ったのだ。その事実に、ぐしゃりと髪をかき乱す。

どれくらい、そうしていたのだろう。

不意に呼び鈴が鳴って、はっと意識が戻る。訪問者を出迎えるべく、ふらふらと玄関へと向かう。

「…はい」

だが、おかしなことに扉を開けたそこには誰もいなかった。代わりに封筒だけが置かれていた。

「?」

不思議に思いながらもそれを拾い上げ、差出人を確認すると

「!」

そこには先日捕らえた男の名が記されていた。

再び周囲を見渡すも、誰もいない。爆発物の類ではない事を確認して、慎重に封を開ける。

中身は手紙と写真と思しきものが数枚入っていた。写真には…

「…っ」

どれもこれも、口では言い表すのも憚れる状態の…ラルフが写っていた。

そして、手紙には…

『獣人との生活は楽しめたかい?これはほんのお裾分けさ。でも、そろそろ返して貰うよ。これは僕のものだ』

沸々と湧き上がる怒りに、体が震えた。

「…ふざけるな」

衝動に呑まれそうになりながら、残った理性を総動員させて電話をかける。

「…私だ。ちょっと頼まれてくれるかい?」

相手も普段とは違う私の剣呑な雰囲気を察したのか、直ぐに真剣な声に変わる。

「…ああ、直ぐに行く」

電話を切り、身支度を整え、家を出た。

次に帰る時はラルフも一緒だ、と誓って。

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