華散るその時まで

碧月 晶

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それは家に入る直前の事だった。嗅いだ事のある、けれど知らない匂いに気付く。

「どうかしたのかい?」
「…知らねぇ奴の匂いだ。この匂い…獣人だ」
「そこまで分かるのかい?さすがだね」
「呑気な事言ってる場合かよ…」

こんなにはっきりと獣人の匂いがするという事は、相手は『擬態』──人化を解いている可能性が高い。…にも関わらず、何食わぬ顔で家に入って行こうとするエドの腕を思わず掴む。

「おい!オレの話聞いてなかったのか」
「勿論聞いていたさ。だから行くんだよ」
「な、馬鹿かあんた!相手は獣人なんだぞ」
「心配してくれてありがとう、君は優しいね。大丈夫だよ。君こそ忘れていないかい?私はただの人間ではないという事を」

その言葉にはっとした。あまりにらしくなくて忘れてしまっていたが、こいつは魔法使いだ。寧ろ、獣人相手ならば…。

「…っ、そうかよ」

胸の奥に針が刺さったような痛みが走った。こいつも結局は…あいつらと同じなのか。

「? どうし──」

エドが何かを言い掛けた瞬間、オレは押し倒された。直後、木が割れるような音が鳴り響く。

「フーッ、フーッ」
「! こいつ…!」
「…熊の獣人か」

さっきまで俺達が立っていた場所にゆらりと立つそいつは、予想通り擬態しておらず正気を失っているようだった。

「まずいな…強い『ブルート』の気配を感じる」
「ブルート?」
「説明は後だ。一旦距離を取ろう」

言うなりエドは熊の獣人に向かって何かを投げつけ、相手が怯んだその隙にあろうことかオレを抱き上げたのだった。

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