華散るその時まで

碧月 晶

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男がサイドテーブルに置いてあったベルを鳴らすと、間も無くメイドが何かを乗せたトレイを持ってやって来た。

男はメイドに「ご苦労様」と言って、直ぐにメイドを下がらせた。

「さて、じゃあ私は少し席を外すよ。暫くしたらまた来るから、それまでゆっくり食べると良い」
「…誰が」

食べるかと言う前に、男は「それじゃあね」と言い残して本当に部屋を出て行った。

「……何なんだ、一体…」

暫くは警戒してその場から動けなかった。が、次第に部屋に充満していく美味しそうな食べ物の匂い。それに比例して主張を激しくしていく腹の音。

その内、この匂いの正体が何なのか。見るくらいなら良いのではないかという考えが生じ始め、ゆっくりとサイドテーブルに置かれているトレイに近付いていく。

「…粥?」

試しにそれにそーっと指をつけてみる。
熱すぎず、かと言って冷たくもない。

「これが飯…?」

いつも無理矢理食べさせられていたエサとは違う、温度があるそれをまじまじと見る。

──ぐううううううぅ

かつてないほどの音を立てる自分の腹に、自分にまだこんなにも食欲というものがあったのかと驚く。

「………」

粒を一つまみし、ひとしきり匂いを嗅ぎ、恐る恐る口へと放り込む。

「……!」

うまい。

もう一つまみ、もう一つまみと手を伸ばしている内に、いつの間にか皿の中身は無くなってしまっていた。

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