華散るその時まで

９

「おや、起きたかい？」

目を覚ますと、そこはいつもの冷たい檻ではなかった。見た事もない部屋に、見た事もない…人間の男。そいつは俺が眠るベッドの直ぐ傍で本を読んで座っていた。銀色の輝く艶のある髪をオールバックにし、年は…３０代半ばくらいだろうか。

「！」

そこまで考えて、オレは漸く覚醒した。寝かされていたベッドから飛び出し、素早くその男から距離を取る。

「…誰だ、お前」
「私かい？私はウィリアム・Eエドワード・クロフォード。気軽にエドとでも呼んでくれると嬉しい」
「…………」
「ここは私の家でね、君を害する者はいないから安心するといい」

そう言って目を細めて微笑むエドという男の眼が灰色だという事に気が付く。

「…あんた、魔法使いか」

獣人を虐げる忌まわしい魔法使い。灰色の瞳はその証。ギシリと牙が疼く。

「…ああ、そうだよ」

答える瞬間、少し間があったように感じたのは気のせいだろうか。

「そんなに動けるなら体は大丈夫みたいだね。安心したよ」

そう言われ、今更ながらに自分の格好にはっとした。至る所に包帯が巻いてある。しかも見るからに上等な肌触りの良い服を着せられていた。

「それじゃあランチにしようか」
「…は？何言って、」
「ん？何ってもうお昼の時間だからね。それに、君は長いこと眠っていたんだ。さぞかしお腹が空いているだろう？」
「誰が人間なんかに──」

──ぐぅうううう

「……プッ」
「っ、わ、笑ってんじゃねえ！」
「いやいや、良い腹の音だと思ってね。良いじゃないか。元気な証拠だ」
「～～～～ッ」
　　　　



何なんだこの人間は。