華散るその時まで

８ sideラルフ

遠い、遠い、過去の記憶。

腹が減ったという感覚さえなくなって、無感情に、きっと直ぐそばまで来ているだろう死神の足音を微睡むように待っていた冬の空の下。

憎らしいくらいに透き通った冷たい青空が、静かにその時が来るのを今か今かと待ち望んでいた。

『…お腹が減っているのかい？』

視線を上げる事すら無意味なような気がして、この息の根はいつ止まるのだろうと瞬きを繰り返す。

『君は…綺麗な眼をしているね』

今となってはもう顔も思い出せない人間。けれど今でもその手の感触だけは覚えている。

冷たい、低い体温のそれが、触れたところから生気が吸い取られていくように体の熱が奪われていく感覚に酷く安心感を覚えた。

『まるで────』

生まれて初めて俺にその感情を抱かせたあの人間は、あの時何と言っていたのだろう。