華散るその時まで

３

どうかおかしな奴だと思わずに聞いて欲しいのだが、この世界には『獣人』と呼ばれる種族が実在している。

獣人とは、その名が示す通り『人の姿』と『獣の姿』になれる存在で、身体能力においては人間のそれを遥かに上回る。

神話や伝承において、古来より存在している彼らは普段人間に擬態し、この人間社会に溶け込んで普通の人間と何一つ変わらない生活を送っている。
だが、その絶対数は少なく、人間の数に対して二割程しかいない。この事を知っているのは、私のように極一部の人間のみだ。

そして私達のような人間は『魔法使い』と呼ばれ、普通の事件とは違う特殊事案──つまり獣人絡みの事件の処理を担当している。
勿論、そんな職種なんてものも世間一般には知られていない。表向きは警察組織の一部という事になっているので、『魔法使い』である者は警察としての肩書きも持っている事も少なくない。

とは言え、毎日警察署へ出勤している訳ではない。魔法使いとしての素質を認められた者は皆、対獣人専門機関（通称：本部）に所属し、研修を終えた者から順次各国に派遣される。
かく言う私もその一人で、本部からこの支部へ配属されてもう随分と経つ。

「おはよう、アラン」
「お、おはようございます！」

今日もピシリと優秀な部下に直立不動で敬礼され、相変わらずだなという思いと少しの寂しさが入り交じる。もう多くは望まないから、せめてファーストネームで呼んで欲しいと思うのは我が儘だろうか。