20 / 23
19「例外と異例」
しおりを挟む
先生に名前を呼ばれた生徒が一人、また一人と前に出ていき、精霊王の像の前に描かれた魔方陣の中央に立ち、呪文を詠唱する。
水、火、風、光、闇属性の下位精霊たちと契約が次々と成されていく中、盛り上がりを見せた瞬間が二回ほどあった。
一つは、浅黄くんが光属性の中位精霊である『ユニコーンの幼体』を召喚した時で。もう一つは、紫麻くんが闇属性の中位精霊である『ケットシー』を召喚した時である。
それぞれの精霊は『リュシー』と『ノワール』と名付けられ、無事契約が成立した。
…さて、いよいよ俺の番か
精霊召喚の儀では、契約を終えた者から順次出ていく。なので、今大聖堂にいる生徒は俺一人だけだ。
「石留椿。前へ」
「はい」
名前を呼ばれ、魔法陣の中央に立つ。
「では、詠唱を始めてください」
「…はい」
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。そして、精霊を召喚するための呪文を唱えた。
「全ての精霊を統べる精霊王よ。我、良き隣人を友とし、契約を望む者なり」
瞬間、カッ!と魔法陣がそれまでとは比べ物にならない程の光を発した。
「!? 何だこれは!」
先生たちの侵入を阻むかのように、魔法陣を中心に風が吹き荒れる。
そんな、今までに無かった現象に戸惑う先生たちを横目に、俺はというと違う意味で戸惑っていた。
…何だ?こんな演出、ゲームでは無かったはずだ。
ゲームでは、精霊召喚の儀で主人公が召喚していた精霊は『上位精霊』だった。
しかも、この時召喚される精霊の『属性』と『数』は、その時点で一番好感度が高い攻略対象が誰なのかによって決まるというシステムだった。
どういう事かというと、例えば、水属性の攻略対象の好感度が一番高かったのなら『水属性の上位精霊』が『一体』召喚され、水と火属性の攻略対象の好感度の高さが同率一位だったのならば『水属性と火属性の上位精霊』が『一体ずつ』つまり合計二体の上位精霊が召喚されるという事になる。
だから、このイベントはその時点での好感度をチェックでき、且つ、誰のルートに入っているのかが一目瞭然で分かるイベントでもあるのだが……おかしいな。
ゲームでは主人公が詠唱を終えると、多少魔法陣が光り輝くという演出があるものの割とあっさりと召喚されていた。
なのに、今の状況は何だ?こんなもったいぶった演出なんて、ゲームでは無かったはずだ。
──と、そんな風に疑問に思っていた、その時だった。魔法陣が突如としてパキィイン!!と大きな音を立てて木っ端微塵に割れたのは。
…えっ?
「なっ、魔法陣が壊れるなんて…!」
「こんな事、前代未聞だぞ!」
「何が起きたんだ!?」
動揺が走る先生たちの声が右から左に流れる。だって、俺も動揺でそれどころではなかったのだ。
…え?これは、一体どういう意味になるんだ?このイベントは一番好感度が高い攻略対象が判明するイベントだったはず。なのに、上位精霊どころか何の精霊も召喚されなかった上に、魔法陣が壊れるなんて…
「…どうなってるんだ」
「石留くん!大丈夫か!?」
漸く風が収まったのか、駆け寄ってきた先生たちに何とか「大丈夫です」と答えたけれど、頭の中は戸惑いと動揺でいっぱいだった。
*****
「ねえ、聞いた?椿様の事」
「精霊が召喚できなかったって話の事?」
「そうそう。それでね、先生たちが話してるの聞いちゃったんだけど。その理由がね、何でも椿様の魔力と合う精霊がいなかったからじゃないかって」
「え!そうなの?それって上位精霊でも合わなかったって事だよね?」
「凄いよね。さすが椿様!椿様に合う精霊っていったら、もう精霊王様しかいないって噂だよ」
…はい、そこの可愛い系男子たち、聞こえてますからね?
噂するのは構わないけど、せめて本人がいない所でしてくれないかな?いや、まあ陰口じゃないだけマシなのかもしれないけど。
精霊召喚の儀から二日が経った現在、聞いての通り、学園は既に俺の話題で持ち切りだった。
どこへ行ってもヒソヒソヒソヒソ。陰口じゃないとは分かっているけれど、それでも常に周囲から好奇の目に晒されているこの状況に辟易してしまう。
はぁと溜め息を吐きながら、次に受ける授業の教室に向かうため廊下を歩いていると、前方に見知った背中を見つけた。
…友広だ!
精霊召喚の儀でも勿論友広を見たが、当然話をする機会はなかった。
しかも、その翌日である昨日は、一日中先生たちと精霊召喚の儀をやり直しし、召喚できない理由を究明するのに付き合わされていたため、話すのは三日間ぶりだ。
そんなこんなで唯一安心して話しかけられる存在を見つけて、嬉しく思わない人間がいるだろうか?いや、いないだろう。いたら見てみたいね。
「友広!」
「………」
あれ、聞こえなかったのかな?
「おーい、友広?」
「っ」
近寄り、後ろからその肩に手を置こうとした、その時。友広がビクッとして驚いたように振り返った。
「? どうしたんだ?友広」
そんなに驚かすような事をしただろうか?
そう思い、首を傾げていると、友広ははっとしたような顔をした後、笑みを浮かべた。
「何だ、お前か。驚かすなよ」
「悪い。そんなに驚くとは思ってなかったから」
「ちょっとな、考え事してて。それで?どうしたんだ?何か用か?」
「いや、見かけたから話しかけただけだ」
「そっか。あ、そろそろ時間ヤバいんじゃないか?次、移動教室だろ?」
「そうだな。じゃあ、また後でな」
「おう」
手を振って友広と別れた後、俺はふととある事を不思議に思った。
…何で、友広は違うクラスなのに俺のクラスの次の授業知ってたんだ?
うーむ。
いや、まあ、友広はお助けキャラなのだから俺を含む攻略対象の授業を把握しててもおかしくないと言えばそうなのだけれど。
「……ま、いいか」
それより今は次の授業に遅れないように急がなくては。
水、火、風、光、闇属性の下位精霊たちと契約が次々と成されていく中、盛り上がりを見せた瞬間が二回ほどあった。
一つは、浅黄くんが光属性の中位精霊である『ユニコーンの幼体』を召喚した時で。もう一つは、紫麻くんが闇属性の中位精霊である『ケットシー』を召喚した時である。
それぞれの精霊は『リュシー』と『ノワール』と名付けられ、無事契約が成立した。
…さて、いよいよ俺の番か
精霊召喚の儀では、契約を終えた者から順次出ていく。なので、今大聖堂にいる生徒は俺一人だけだ。
「石留椿。前へ」
「はい」
名前を呼ばれ、魔法陣の中央に立つ。
「では、詠唱を始めてください」
「…はい」
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。そして、精霊を召喚するための呪文を唱えた。
「全ての精霊を統べる精霊王よ。我、良き隣人を友とし、契約を望む者なり」
瞬間、カッ!と魔法陣がそれまでとは比べ物にならない程の光を発した。
「!? 何だこれは!」
先生たちの侵入を阻むかのように、魔法陣を中心に風が吹き荒れる。
そんな、今までに無かった現象に戸惑う先生たちを横目に、俺はというと違う意味で戸惑っていた。
…何だ?こんな演出、ゲームでは無かったはずだ。
ゲームでは、精霊召喚の儀で主人公が召喚していた精霊は『上位精霊』だった。
しかも、この時召喚される精霊の『属性』と『数』は、その時点で一番好感度が高い攻略対象が誰なのかによって決まるというシステムだった。
どういう事かというと、例えば、水属性の攻略対象の好感度が一番高かったのなら『水属性の上位精霊』が『一体』召喚され、水と火属性の攻略対象の好感度の高さが同率一位だったのならば『水属性と火属性の上位精霊』が『一体ずつ』つまり合計二体の上位精霊が召喚されるという事になる。
だから、このイベントはその時点での好感度をチェックでき、且つ、誰のルートに入っているのかが一目瞭然で分かるイベントでもあるのだが……おかしいな。
ゲームでは主人公が詠唱を終えると、多少魔法陣が光り輝くという演出があるものの割とあっさりと召喚されていた。
なのに、今の状況は何だ?こんなもったいぶった演出なんて、ゲームでは無かったはずだ。
──と、そんな風に疑問に思っていた、その時だった。魔法陣が突如としてパキィイン!!と大きな音を立てて木っ端微塵に割れたのは。
…えっ?
「なっ、魔法陣が壊れるなんて…!」
「こんな事、前代未聞だぞ!」
「何が起きたんだ!?」
動揺が走る先生たちの声が右から左に流れる。だって、俺も動揺でそれどころではなかったのだ。
…え?これは、一体どういう意味になるんだ?このイベントは一番好感度が高い攻略対象が判明するイベントだったはず。なのに、上位精霊どころか何の精霊も召喚されなかった上に、魔法陣が壊れるなんて…
「…どうなってるんだ」
「石留くん!大丈夫か!?」
漸く風が収まったのか、駆け寄ってきた先生たちに何とか「大丈夫です」と答えたけれど、頭の中は戸惑いと動揺でいっぱいだった。
*****
「ねえ、聞いた?椿様の事」
「精霊が召喚できなかったって話の事?」
「そうそう。それでね、先生たちが話してるの聞いちゃったんだけど。その理由がね、何でも椿様の魔力と合う精霊がいなかったからじゃないかって」
「え!そうなの?それって上位精霊でも合わなかったって事だよね?」
「凄いよね。さすが椿様!椿様に合う精霊っていったら、もう精霊王様しかいないって噂だよ」
…はい、そこの可愛い系男子たち、聞こえてますからね?
噂するのは構わないけど、せめて本人がいない所でしてくれないかな?いや、まあ陰口じゃないだけマシなのかもしれないけど。
精霊召喚の儀から二日が経った現在、聞いての通り、学園は既に俺の話題で持ち切りだった。
どこへ行ってもヒソヒソヒソヒソ。陰口じゃないとは分かっているけれど、それでも常に周囲から好奇の目に晒されているこの状況に辟易してしまう。
はぁと溜め息を吐きながら、次に受ける授業の教室に向かうため廊下を歩いていると、前方に見知った背中を見つけた。
…友広だ!
精霊召喚の儀でも勿論友広を見たが、当然話をする機会はなかった。
しかも、その翌日である昨日は、一日中先生たちと精霊召喚の儀をやり直しし、召喚できない理由を究明するのに付き合わされていたため、話すのは三日間ぶりだ。
そんなこんなで唯一安心して話しかけられる存在を見つけて、嬉しく思わない人間がいるだろうか?いや、いないだろう。いたら見てみたいね。
「友広!」
「………」
あれ、聞こえなかったのかな?
「おーい、友広?」
「っ」
近寄り、後ろからその肩に手を置こうとした、その時。友広がビクッとして驚いたように振り返った。
「? どうしたんだ?友広」
そんなに驚かすような事をしただろうか?
そう思い、首を傾げていると、友広ははっとしたような顔をした後、笑みを浮かべた。
「何だ、お前か。驚かすなよ」
「悪い。そんなに驚くとは思ってなかったから」
「ちょっとな、考え事してて。それで?どうしたんだ?何か用か?」
「いや、見かけたから話しかけただけだ」
「そっか。あ、そろそろ時間ヤバいんじゃないか?次、移動教室だろ?」
「そうだな。じゃあ、また後でな」
「おう」
手を振って友広と別れた後、俺はふととある事を不思議に思った。
…何で、友広は違うクラスなのに俺のクラスの次の授業知ってたんだ?
うーむ。
いや、まあ、友広はお助けキャラなのだから俺を含む攻略対象の授業を把握しててもおかしくないと言えばそうなのだけれど。
「……ま、いいか」
それより今は次の授業に遅れないように急がなくては。
10
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。
実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~
白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。
そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!?
前世は嫌われもの。今世は愛されもの。
自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!!
****************
というようなものを書こうと思っています。
初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。
暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。
なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。
この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。
R15は保険です。
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
18禁BLゲーム『WORLD NOVA』の世界で頂点を目指す!
かずら
BL
自分が成人向けBLゲーム『WORLD NOVA』の世界、それも主人公のエルシュカ・アーレイドとして転生してしまった事に気が付いた加賀見 貴一。そこは『共鳴力』と呼ばれる、男性同士の性的接触によって生み出される特殊な力を必要とする世界だった。この世界では男性同士でユニットを組み、WORLD NOVAと呼ばれる大会で共鳴力や国民からの人気を競い、優勝すればそのユニットには絶対的な地位と富が与えられる。そんなWORLD NOVAにエントリーしてしまったその直後に記憶を思い出した貴一は、今更辞める事も出来ずに大会優勝に向けて突き進んでいく。―――総受け主人公、エルシュカとして。
どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。
彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。
だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。
どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。
暴君王子の顔が良すぎる!
すももゆず
BL
気がついたら異世界で生きていたジェード。現実世界での記憶はあるものの、特に困ることなく平和に過ごしていた。
とある日、王族のパレードで王子を見た瞬間ジェードは全てを理解した。
あの王子の顔……! 見たことがある……!
その王子はジェードが現実世界で顔に一目惚れした、BLゲームの登場人物、イーディス王子そのものだった。
ここが異世界じゃなくてBLゲームの世界だと気づいたジェードは超ド好みのイーディス王子の顔面を拝むため、城の従者として働くことを決意する。
……が、イーディス王子は見た目からは想像できないほど傲慢でえらそうな暴君王子だった……!?
でも顔がいいから許す!!!
恥ずかしくてゲームは未プレイだったジェードがなんだかんだ初見プレイで王子を攻略していく話。(予定)
俺は、嫌われるために悪役になります
拍羅
BL
前世では好かれようと頑張のに嫌われたので、今世では始めから嫌われようと思います。
「俺はあなた達が大嫌いです。」
新たに生を受けたのはアルフ・クラークソンという伯爵の息子だった。前世とは違い裕福な家庭へと生まれたが、周りの人々の距離は相変わらずだった。
「そんなに俺のことが嫌いなら、話しかけなけばいいのに…。」
「今日も、アルフ様は天使のように美しくて眩しいわ。」
そうアルフが思っていることも、それと反対のことを周りが考えていることも当の本人は知らなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる