31 / 55
いつか必ず失うもの1
しおりを挟む『信じなければ良かった』
その言葉を泣きながら繰り返し吐き出すその後ろ姿に、何て言って声をかけるのが正解だったのだろう。
否定するでも肯定するでも、ましてや慰める訳でもなく、ただその背中を撫でる事しか出来なくて
湧き上がる疑問を、喉の奥に押し込め続けた。
*******
ガタガタと鳴る窓、建物全体からそこはかとなく聞こえてくる軋む音。
「大丈夫かな…」
八月半ば。狂ったように日本列島に体当たりしにくる台風が多数発生するこの時期。
未だに倒壊せずに残っているところを見る限り恐らく大丈夫なのだろうとは思うが、この音を聞くと少々不安になる。
「…暑い、もう無理」
出来るだけエアコンは使いたくなかったが、窓も開けられないのでは仕方がない。
涼をとっていた扇風機の前からゾンビ宜しく這って移動し、リモコンへと手を伸ばす。
「涼しい…」
涼風がじっとりとしていた肌から熱をさらっていく感覚に心地良さを感じる。このまま眠ってしまいたいが、そんな思考を邪魔する虫の音が一つ。
きゅるるると何とも切なく訴えかけてくる胃の声に応え、のっそりと起き上がり、何を作ろうかと冷蔵庫を開ける。
そして閉めた。
「ダメだ…やる気が出ない」
今の今まで暑くてうだっていたのに、更にこれから火を使うのかと思うとどうしても作る気になれない。
冬場の台所は暖をとれて良いが、夏場の台所は地獄そのものだ。あれはいただけない。
「どうするかな…」
と、カゴの食パンと目が合う。
玄さんのお店で買っておいた食パン。まだ二枚ほど残っている。
「…仕方ない、か」
ガサガサと一枚取り出し、イチゴジャムを塗って、かじりつく。
ここの所、時々だが今日のように暑くて食事の用意が億劫になった日はこうしてパンで済ませる事が多くなった。
あまり良くない事だとは分かっているが、何も食べないよりはマシだろう。
完食し、空になった袋をたたむ。また買いに行かなければ。
「…いつ帰ってくるんだっけ」
カレンダーの日付けを指でなぞる。
先輩は今、玄さんの実家に帰省している。
その事を知ったのは、あの夏祭りの日の帰り道。毎年この時期になると祖父母の家に行くのだと聞かされた。
県内にはあるがこことは正反対の位置にあるらしく、往復に結構な時間がかかるため、八月下旬くらいまであちらで過ごすのが恒例なのだそうだ。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
ボクに構わないで
睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。
あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。
でも、楽しかった。今までにないほどに…
あいつが来るまでは…
--------------------------------------------------------------------------------------
1個目と同じく非王道学園ものです。
初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる