ヒースの傍らに

碧月 晶

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たこ焼き、かき氷、りんご飴、カステラ、綿菓子、鯛焼き、焼き鳥、焼きトウモロコシ、アイスクリーム、イカ焼きにフライドポテト。

泉水家の人たちはそれはもうどんだけ食べるんだという程に屋台を次から次へとハシゴしていった。

「あー食べた~」
「おなかいっぱーい!」
「よくそんなに入りますね…」
「おれまだいけますよ」
「え、嘘」
「マジです。まだ七分目ってとこですね」

あの量でまだそれだけなのか。恐るべし中学生男子の胃袋。俺はもうギブアップします。

お腹が苦しいので少し休むと言うと、まだ食べ足りないという夏樹君は歴ちゃんを抱っこした玄さんと共に再び人混みへと消えていった。

そうすると必然的に先輩と二人になる訳で。

「大丈夫?ごめんね、うちこういうの昔から大好きでさ」

小さいペットボトルの水を手渡され、受け取る。いつの間に買ってきたんだ。

「あ、すみませんお金…」
「いいよ、そんなの」

出店のハシゴをしている時、まとめて買った方が面倒じゃなくていいと言って俺の分まで支払ってくれていた。
途中でギブアップしたからそれまでに払って貰った分をいま返そうと思ったのだが、先輩は受け取ってくれなかった。

「いいの、俺がしたくてしてるんだから。つずきくんは気にしなくて良いんだよ」
「でも、」
「それに」

そこで言葉を切った先輩の顔が、何故か近付く。

「好きな子の前なんだから、かっこつけさせてよ」
「…………、そうですか」
「うん。そうだよ」

……何というか、

「ずっと思ってたんですけど、よくそんな歯が浮きそうな台詞せりふ平気で言えますよね。恥ずかしくないんですか」
「んー…別に?それに、好きな人には全力でアタックしろって父さんも言ってたし」
「玄さんが?」
「うん。父さんも母さんに振り向いて貰えるまで猛アタックしたんだって」

だからこれが我が家の教えなのだと。

夜空を見上げながらそう言った先輩の横顔に、いつかの桜の木の下での事が蘇る。
そして気が付いた。あれは亡くなったお母さんの事を考えていたのだと。

『蝉ってさ、自分が地上で7日間しか生きられないって知ってるのかな』

あの時先輩はそう言った。俺は「蝉じゃないから分からない」と答えたけれど、本当はもっと違うことを言おうとしていた。
でもそれを言ったところで、どうせこの人には分からないだろうと。そう決めつけていた。

今なら、あの時本当に言おうとしていた事にこの人は答えられるだろうと分かる。
だけど、だからこそ尚更聞けなくなってしまった。
だってそれはこの人にとって、泉水家この人たちにとって失礼極まりないものでしかない。俺のものとは訳が違う。雲泥の差だ。

「…………」
「つずきくん?どうかしたの?」
「あ、いえ…何でも、ないです」

いつの間にか俯いていた顔を覗き込まれ、はっと我に返る。

「大丈夫?気分悪い?」
「いえ。ちょっと考え事をしていただけです」
「そ?でも体調悪くなったら直ぐ言ってね」
「…はい」

先輩は俺との出会いを運命だと言った。だけど俺は、俺は………

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