ヒースの傍らに

碧月 晶

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浴衣を着た人たちが同じ方角に連れ立って歩いていく。
夏祭りなんて小学生の頃以来だ。

まばらに道行く人たちの『文字』から視線をそっと外し、そういえばと思い出す。出掛けに視たアレは何だったのだろう。
俺が『文字』あれらについて知っている事は三つ。一つ目は近い将来に失うものがあれば現れる事。二つ目は失うその時が来れば消える事。そして三つ目は、そのどちらも漠然としかタイミングが分かっていない事。

あんな現象、初めて視た。いったい何を意味し、て……

「あの…さっきから何ですか。視線がうるさいんですけど」
「ん?浴衣、すっごく似合ってるなーって思って。堪能してた」
「………」

何故そこで最後にその言葉を付け足したのか。はなはだ疑問であるがここは敢えて追求しないのがベストだと俺は信じる。
よってここはスルーだ。

げんなりしながらそれ以上言及する気が失せた俺は、ついでにその恰好に目を向ける。
先輩の浴衣は綺麗な緑…いや翡翠ひすい色の生地に白い笹のような紋様が描かれていた。

とても不本意だが、高身長も相まってよく似合ってると言わざるを得ない。同じ男なのにこの差は何だろう。やっぱり身長なのか、そうなんだな。……ちくしょう、絶対に似合ってるなんて言ってやるものか。

「記念に写真撮って良い?」
「意味が分かりません」
「だってほんとによく似合ってるし」
「却下」
「ええー」

「勿体ない…」と拗ねる意味不明野郎を無視していると袖が小さく引っ張られる。

「ねぇねぇ、月おにいちゃん。ふゆの浴衣かわいーい?」

下を見ると、小さな花が散らされたピンクの浴衣を着たふゆちゃんが腕を広げていた。目線を合わせ、歴ちゃんの前に屈み込む。

「うん、凄く可愛い。今日はお団子なんだね」
「うん!おにーちゃんがしてくれたの!」
「え、先輩が…?」
「え、何その意外そうな声」
「おにーちゃんはね、凄いんだよ!ふゆがこれやってって言ったら、あっというまにできちゃうの」
「へぇ、そうなんだ」
「このゆかたもおにーちゃんが着せてくれたんだよ」

そう言って嬉しそうにくるんと一回転して浴衣を見せてくれる歴ちゃんの姿に、目を細める。

それにしても『みーちゃん』って何の事だろう。でもいきなり「みーちゃんって何?」って聞く訳にもいかないよな。

「そっか、良かったね」
「うん!」

そう言って小さな頭を撫でると、歴ちゃんは本当に嬉しそうに笑った。


********


階段を上りきると、参道を挟んでたくさんの出店が軒を連ねて並んでいた。

そして来る時よりも何倍にも増えたそれらを視て、思わず半歩後退る。
予想していた事とは言え、やっぱり早まったかもしれない。

「よっし、じゃあ片っ端から回るぞー!」
「ぞー!」
「おれかき氷食べたい」

そんな俺とは正反対に、途端にやる気を見せ始めた泉水家の方々。
そして、再度一層混雑している人混みへと目を向ける。

「う…」

えげつない数の『文字』に思わず心の声がぽろり。やっぱりこの風景は何度視ても慣れない。

「つずきくんは何食べたい?」
「やっぱりかき氷ですよね、月漉さん」
「夏樹は本当にかき氷が好きだねぇ」
「月おにいちゃん、早くいこー?」



…ああ、本当に見慣れない風景だ。


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