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テスト最終日。
終わるや否や風の如く学校を後にした俺は駆け足で家を目指した。
なぜ駆け足なのかは聞かなくとも想像に難くないだろう。
鍵を開け、一目散に冷蔵庫を目指す。
紙袋ごと冷やしていた目的物を取り出し、着替えもせずに…………いや一応着替えて行こう。
仮にも飲食店な訳だし。
そうして制服から私服にチェンジした俺は出来るだけ木陰を通って、そこへ辿り着いた。
『ベーカリー─春─』
泉水先輩のお父さん──玄さんが経営しているパン屋さんの名前。
何だかんだちょくちょく通うになってから俺のポイントカードは二枚目に突入した。
初回得点でイチゴジャムを貰ったので一枚目の時はマーマレードにした。今はブルーベリーのジャムを狙っている。
…と、余談はここまでにして。そろりと中を覗き見る。
3年生は今日は午前までのはずだったから居るはず───
「あれ?つずきくんじゃん、こんなとこで何してんの?」
「!!!」
予期していなかった背後からの声に盛大に飛び上がる。
「…ぶっ、ちょ、待って…なに今の動き!」
「~~~せ、先輩が驚かすからじゃないですか!」
「ごめ…っ、でも今のネコみたいでかわい、くっ…あはははは!」
本格的に腹を抱えて笑い出した先輩の脛を蹴って黙れと主張。一応ここ往来ですからね。今は人通りがなくてもそうなんだよ。
「ごめんごめん」
「…微塵もそんな事思ってないでしょう」
先輩の案内で店の裏口らしき所へと場所を変え、悪びれる様子もないニヤけ面を睨み返す。
「うん。だって可愛いかったから」
思わず鳩尾に打ち込みそうになった拳をどーどーと心の中で静める。
落ち着け。今日はそんな目的で来た訳じゃないだろ。
「あの、これ」
「え、くれるの?」
半ば押し付ける形で手渡すと、先輩はキョトンと目を丸くした。
「遅くなりましたけど、この間のお礼です」
「…ああ。別に気にしなくて良いって言ったのに」
「…っ、俺が気にするんです」
知らず、語気が強くなってしまいハッと我に返ると先輩は驚いたような顔をしていた。
「す、みません…俺、」
「…つずきくん」
「あの、俺…あの時知らなくて、」
「つずきくん」
「なのにあんな、あんな無神経なこ、と…」
ふわり。本当にそんな擬音が当てはまるように、先輩は俺を抱き締めた。
あまりにも自然な動作に数秒思考が停止していたが、宥めるように頭に回された手の感触に気がついた瞬間、目の前にあった胸板を咄嗟に押し返した。
だけど、どうやら思ったより力が入っていなかったらしい。振り解く事はおろか、大した距離も開けられなかった。
「つずきくんは悪くないよ、言わなかった俺が悪かったんだから」
落ち着いた、優しい声音。それは、俺が今日手土産を持って来た本当の目的を分かっているようだった。
────先輩の家には母親がいない。
離婚したのか死別したのか、そこまでは聞けなかったけれど、そう聞いた時の千堂先輩の強張ったような表情とあの時見た泉水先輩の表情が重なって見えた。
「もしかして誰かから…あー、逞あたりから聞いた?」
「いえ…ハッキリとは。俺が勝手に千堂先輩の口振りから推測しました」
先輩がまだ言っていない事を自分から言うのは憚られる、と言っていたと話せば、先輩はまた笑い出した。
「そんな事言ってたの?律儀だなー逞は」
「………」
「つずきくんも、やっぱり優しいねー」
「…っ、俺は」
「優しいよ。じゃないとこうしてわざわざ謝りになんて来ないでしょ。俺の事をどうでもいいと思ってるなら尚更。それくらいは気にかけてくれてるんだなって思ったんだけど、違った?」
「………っ」
うぐっと声を詰まらせる俺の頭上にふっと息がもらされる。
笑うなこの野郎。俺だってよくよく考えたらこんなに気にする必要なかったんじゃないかって今さっき気付いたところなんだから。
終わるや否や風の如く学校を後にした俺は駆け足で家を目指した。
なぜ駆け足なのかは聞かなくとも想像に難くないだろう。
鍵を開け、一目散に冷蔵庫を目指す。
紙袋ごと冷やしていた目的物を取り出し、着替えもせずに…………いや一応着替えて行こう。
仮にも飲食店な訳だし。
そうして制服から私服にチェンジした俺は出来るだけ木陰を通って、そこへ辿り着いた。
『ベーカリー─春─』
泉水先輩のお父さん──玄さんが経営しているパン屋さんの名前。
何だかんだちょくちょく通うになってから俺のポイントカードは二枚目に突入した。
初回得点でイチゴジャムを貰ったので一枚目の時はマーマレードにした。今はブルーベリーのジャムを狙っている。
…と、余談はここまでにして。そろりと中を覗き見る。
3年生は今日は午前までのはずだったから居るはず───
「あれ?つずきくんじゃん、こんなとこで何してんの?」
「!!!」
予期していなかった背後からの声に盛大に飛び上がる。
「…ぶっ、ちょ、待って…なに今の動き!」
「~~~せ、先輩が驚かすからじゃないですか!」
「ごめ…っ、でも今のネコみたいでかわい、くっ…あはははは!」
本格的に腹を抱えて笑い出した先輩の脛を蹴って黙れと主張。一応ここ往来ですからね。今は人通りがなくてもそうなんだよ。
「ごめんごめん」
「…微塵もそんな事思ってないでしょう」
先輩の案内で店の裏口らしき所へと場所を変え、悪びれる様子もないニヤけ面を睨み返す。
「うん。だって可愛いかったから」
思わず鳩尾に打ち込みそうになった拳をどーどーと心の中で静める。
落ち着け。今日はそんな目的で来た訳じゃないだろ。
「あの、これ」
「え、くれるの?」
半ば押し付ける形で手渡すと、先輩はキョトンと目を丸くした。
「遅くなりましたけど、この間のお礼です」
「…ああ。別に気にしなくて良いって言ったのに」
「…っ、俺が気にするんです」
知らず、語気が強くなってしまいハッと我に返ると先輩は驚いたような顔をしていた。
「す、みません…俺、」
「…つずきくん」
「あの、俺…あの時知らなくて、」
「つずきくん」
「なのにあんな、あんな無神経なこ、と…」
ふわり。本当にそんな擬音が当てはまるように、先輩は俺を抱き締めた。
あまりにも自然な動作に数秒思考が停止していたが、宥めるように頭に回された手の感触に気がついた瞬間、目の前にあった胸板を咄嗟に押し返した。
だけど、どうやら思ったより力が入っていなかったらしい。振り解く事はおろか、大した距離も開けられなかった。
「つずきくんは悪くないよ、言わなかった俺が悪かったんだから」
落ち着いた、優しい声音。それは、俺が今日手土産を持って来た本当の目的を分かっているようだった。
────先輩の家には母親がいない。
離婚したのか死別したのか、そこまでは聞けなかったけれど、そう聞いた時の千堂先輩の強張ったような表情とあの時見た泉水先輩の表情が重なって見えた。
「もしかして誰かから…あー、逞あたりから聞いた?」
「いえ…ハッキリとは。俺が勝手に千堂先輩の口振りから推測しました」
先輩がまだ言っていない事を自分から言うのは憚られる、と言っていたと話せば、先輩はまた笑い出した。
「そんな事言ってたの?律儀だなー逞は」
「………」
「つずきくんも、やっぱり優しいねー」
「…っ、俺は」
「優しいよ。じゃないとこうしてわざわざ謝りになんて来ないでしょ。俺の事をどうでもいいと思ってるなら尚更。それくらいは気にかけてくれてるんだなって思ったんだけど、違った?」
「………っ」
うぐっと声を詰まらせる俺の頭上にふっと息がもらされる。
笑うなこの野郎。俺だってよくよく考えたらこんなに気にする必要なかったんじゃないかって今さっき気付いたところなんだから。
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