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入り口を抜ければ、鼻を突く薬品の匂い。
手には先ほど買ったばかりの季節の花々。
名前は知らない。
店員が勧めたものを買った。
慣れた足取りでエレベーター乗り場に向かい、待っていれば
「わ、大っきい人ですね…」
「え?ああ、例の子の所にずっとお見舞いに来ている方よ」
俺に聞こえていないと思っているのか、彼女達は背後でひそひそと井戸端会議をし始めた。
好き勝手にされる噂話を背に受けながら、程なくして開いたエレベーターに足早に乗り込む。
ドアが閉まると同時に、無意識に詰めていた息を深く吐き出した。
…あの子、か。
確かにあの見てくれじゃ、今でも十分それで通るだろうな。
対して俺は…
「そんなに老けて見えんのか…?」
同い年のはずなんだがな。
苦笑しながら、目的の階に着いたエレベーターを降りる。
通りかかった職員に軽く会釈をして、並ぶ個室の内一つの引き戸を引いた。
「…よお」
相変わらず陶器みたいに白い頬に指先を滑らせる。
「今日はなんか黄色いのを勧められた」
持ってきた花束と少し萎(しお)れてしまった花瓶の中身を交換して、コートを脱いで丸椅子に腰掛ける。
…─ピ、─ピ、─ピ、─ピ、─ピ、─ピ…
規則正しい無機質な電子音が鳴り響く。
「…そういや、今朝懐かしい夢を見たな。お前と出会ったばっかの頃。砂酉が出てきたのだけが完全に余計だったけどな」
力なく置かれた手を取ると、落ちた裾から現れる白い腕。
簡単に折れてしまいそうな綺麗な指と自分の似ても似つかない武骨な手を丁寧に絡ませる。
「…やっぱ、何も答えねぇのな」
もうずっと、あの薄茶色の瞳は見えないままだ。
「…早く起きろよ……いつまで寝てんだよ。なあ…────虹…」
手には先ほど買ったばかりの季節の花々。
名前は知らない。
店員が勧めたものを買った。
慣れた足取りでエレベーター乗り場に向かい、待っていれば
「わ、大っきい人ですね…」
「え?ああ、例の子の所にずっとお見舞いに来ている方よ」
俺に聞こえていないと思っているのか、彼女達は背後でひそひそと井戸端会議をし始めた。
好き勝手にされる噂話を背に受けながら、程なくして開いたエレベーターに足早に乗り込む。
ドアが閉まると同時に、無意識に詰めていた息を深く吐き出した。
…あの子、か。
確かにあの見てくれじゃ、今でも十分それで通るだろうな。
対して俺は…
「そんなに老けて見えんのか…?」
同い年のはずなんだがな。
苦笑しながら、目的の階に着いたエレベーターを降りる。
通りかかった職員に軽く会釈をして、並ぶ個室の内一つの引き戸を引いた。
「…よお」
相変わらず陶器みたいに白い頬に指先を滑らせる。
「今日はなんか黄色いのを勧められた」
持ってきた花束と少し萎(しお)れてしまった花瓶の中身を交換して、コートを脱いで丸椅子に腰掛ける。
…─ピ、─ピ、─ピ、─ピ、─ピ、─ピ…
規則正しい無機質な電子音が鳴り響く。
「…そういや、今朝懐かしい夢を見たな。お前と出会ったばっかの頃。砂酉が出てきたのだけが完全に余計だったけどな」
力なく置かれた手を取ると、落ちた裾から現れる白い腕。
簡単に折れてしまいそうな綺麗な指と自分の似ても似つかない武骨な手を丁寧に絡ませる。
「…やっぱ、何も答えねぇのな」
もうずっと、あの薄茶色の瞳は見えないままだ。
「…早く起きろよ……いつまで寝てんだよ。なあ…────虹…」
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