Estrella

碧月 晶

文字の大きさ
上 下
135 / 179

12

しおりを挟む
姿が消えた瞬間、どっと押し寄せてくる疲労感を悟られまいと

もう温(ぬる)くなってしまった緑茶に口を付けた。


「どう?イッちゃん面白かったでしょ?」


…面白い?
腹立たしいの間違いじゃないのか?


「あはは、そうか?って感じだね」


湯飲みに口を付けたまま、視線を向けると
それだけで俺の意思を感じ取ったらしい。


「やっぱり那月君ぜーんぶ出ちゃうから分かり易いね」
「そんな事言うのはお前くらいだ」
「じゃあ皆聞く耳がなかったんだね、きっと」
「それを言うなら見る目だろ」
「そだっけ?」
「……………」
「ふふっ、那月君かわいい」
「かわいいとか…言うな」


目を合わせ辛くなって、思わず明後日の方向へと逸らした俺の頬を祭月は尚もツンツンとつついてきた。


…かわいいって何だよ、かわいいって。
それを言うならお前の方がよっぽど………………って何考えてんだよ俺は



「イッちゃんも可愛いところあるんだよー」



その名を聞いた瞬間、また胸がひやりとした。


今は、その名を
特に祭月の口からは聞きたくなかった。


「あ、そろそろかな?」
「…え?」


その声に、知らず知らずの内に俯いてしまっていた顔を上げると


「こっち来て!」
「え、な、なんだよ」


突然腕を引かれ、ベランダに連れて行かれた。


「あ、いたいた」


下を覗き込む祭月に倣(なら)い、見ると

ちょうど高級そうな車に乗り込む砂酉の姿があった。
……所謂、リムジンという車に。


「なかなかリアルでアレに乗ってる人って、そうそうお目にかかれないよね」
「……なあ、あいつって」
「うん。何かどっかのデッカい会社のお坊ちゃんだよ」



…ああ、なるほど。
あの人を見下しきった態度にも合点がいった。

ん?

まさか砂酉を面白いと形容した理由って…これか?


確かめるようにチラリと視線だけを移すと



「………っ!」




俺は、息を飲んだ。







薄茶色の世界に夜を溶かし、雲間から覗く月を浮かべた瞳。




どこか哀愁さえ感じる妖しい笑み。




淡い月光に照らし出され、陰影を落とす横顔。






俺はそれらを前にして、まるで魅入られたように動けなくなった。



「…?どーかした?那月君」
「……………いや」




初めて、誰かを綺麗だと思った瞬間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男だけど女性Vtuberを演じていたら現実で、メス堕ちしてしまったお話

ボッチなお地蔵さん
BL
中村るいは、今勢いがあるVTuber事務所が2期生を募集しているというツイートを見てすぐに応募をする。無事、合格して気分が上がっている最中に送られてきた自分が使うアバターのイラストを見ると女性のアバターだった。自分は男なのに… 結局、その女性アバターでVTuberを始めるのだが、女性VTuberを演じていたら現実でも影響が出始めて…!?

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

oh my little love

フロイライン
BL
東京で一人暮らしを始めた俺は、寂しさからSNSで小学校のときの親友、蒼太を見つけ、コンタクトを取ったが‥

狂宴〜接待させられる美少年〜

はる
BL
アイドル級に可愛い18歳の美少年、空。ある日、空は何者かに拉致監禁され、ありとあらゆる"性接待"を強いられる事となる。 ※めちゃくちゃ可愛い男の子がひたすらエロい目に合うお話です。8割エロです。予告なく性描写入ります。 ※この辺のキーワードがお好きな方にオススメです ⇒「美少年受け」「エロエロ」「総受け」「複数」「調教」「監禁」「触手」「衆人環視」「羞恥」「視姦」「モブ攻め」「オークション」「快楽地獄」「男体盛り」etc ※痛い系の描写はありません(可哀想なので) ※ピーナッツバター、永遠の夏に出てくる空のパラレル話です。この話だけ別物と考えて下さい。

ボクに構わないで

睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。 あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。 でも、楽しかった。今までにないほどに… あいつが来るまでは… -------------------------------------------------------------------------------------- 1個目と同じく非王道学園ものです。 初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

処理中です...