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475.秘密
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リオとすっかり打ち解けた後、この状況を打破すべく話し合いを続けていた。
話題は先程の、アイセが理由は分からないが風の陣営に組している事を踏まえた上で、ここからどうやって戦線を元に戻すか若しくは押し返すかというものに移った所で、リオから一つの提案が出された。
「アフィルクの情報源を断つ?」
「ああ。これまでは余剰人員がなく、知っていても出来なかったが…」
地図に描かれているある領の一部に付けられた×印。それをじっと見据えてから、リオは顔を上げた。
「ヴィントたちのお陰で、漸く決行する事ができる」
「それは分かったが…印が付けてあるこの領はどこなんだ?」
「イシュカ領だ」
「!」
イシュカ?まさか…
思い至った考えを肯定するように、リオがこくりと頷く。
「察しの通り、アイセの母親──ミテラ・イシュカの生家がある領だ。そして、この屋敷の隠し部屋にはアフィルクの製造に関する資料がある」
その言葉に、俺たちは驚きに顔を見合わせた。
確かに、リオ程の男ならば早い段階でアフィルクの製造資料の在り処を見つけ出していても不思議ではない。ないが…
「リオ、一つ聞いても良いか?」
「何だ?」
「…何故、イシュカ家に隠し部屋があると知っているんだ?」
リオの配下の密偵が優秀である事は分かる。だからこの情報を掴んだのも密偵だと言われれば納得するだろう。
だが、先程リオは「知っていても出来なかった」と言った。
それはまるで、密偵からではなくリオ自身が最初から知っていたかのような口ぶりで。聞いた時、俺は僅かな違和感を覚えた。
「密偵からの情報だ…と言ってもヴィントには通用しないか…」
リオは困ったように苦笑すると、一つ息を吐き出してから「どこから話したものか」と口を開いた。
「まず、確認しておきたいのだが、ミテラ・イシュカについてどこまで知っている?」
「ソキウス・エストレアと駆け落ちした女性で、アイセたちの母親だという事だけだ」
「そうか。彼女の子どもが双子だった事も知っているのだな」
「彼女がどうかしたのか?」
「…彼女──ミテラ・イシュカには双子の妹がいた」
「!」
双子の、妹?
「その妹の名はヴァネッサ。彼女はミテラ程強い能力は有していなかったが、それなりに強い能力を見初められて今は亡き父──フェンニース・シュネーフリンガ侯に嫁いだ。…ここまで言えばもう分かるだろう?」
少しだけ口角を上げてそう言ったリオに、イグたちから動揺の声が上がる。
つまり、リオはアイセの…
「…アイセはこの事を知っているのか?」
「いや、知らないだろうな」
リオは肩をすくめて「従兄弟という関係はエストレア家とイシュカ家の人間しか知らないだろう」と言うと、少しだけ口角を上げた。
「あのー…じゃあ隠し部屋の事はヴァネッサ嬢からですか?」
おずおずと確認するようにそう質問したアズライトに、リオは「ああ」と首肯する。
「それと、亡くなる前に母が言っていた。イシュカ家には秘密があると」
「秘密?」
「…イシュカ家は代々薬の扱いに長けている一族で、最も薬の扱いが上手い男が当主の座に就いてきた。だが、イシュカの先代当主──つまりアイセの母方の祖父ナイジェルには双子の娘しか生まれなかった。だから仕方なく長女であるミテラに薬学の知識を学ばせ、妹である母は十五歳で嫁がされた」
リオ曰く、オラージュ王国の法では十五歳から成人と定められているらしい。
確かに成人になったと同時に結婚するのは貴族にとって別段珍しい事ではないが、姉のミテラ嬢にしか薬学の知識を学ばせなかった上に早々に嫁がせた所を聞くに、ナイジェルにとっての彼女の価値はミテラ嬢ほど高くはなかったのだろう。
「ミテラがどこまで薬学を学んでいたのかは知らないが、恐らくイシュカ家の秘密──『人工能力薬の実験』については知っていただろう」
人工、能力薬?
聞き慣れない言葉。だが、不穏な言葉に思わず眉を寄せる。
「言葉の通り、イシュカ家は代々裏で『人工的に能力者を生み出す薬』の開発と実験を無能力者を使って行っている」
「なっ…!」
「そんな事を…!?」
驚きに声を上げるアズライトとユアン。
それもそうだろう。アズライトには今回オラージュ王国を調べさせたがその情報が出て来なかった所をみるに相当厳重に隠されてきた事が窺える。
ユアンも医者であると同時に薬学を研究している者だ。まさかそんな非人道的な実験がされているなんて知って、さぞ驚いた事だろう。
「あの、二つほど質問しても良いでしょうか?」
「ああ」
それまで冷静に話を聞いていたイグがすっと小さく手を上げる。
「一つ目ですが…お話しから推測するに『アフィルク』はその実験とやらの副産物なのでは?」
「! 何故それを…」
リオは驚いたように目を見開いたが、直ぐに「そうだ」と頷いた。
すると、それを確認したイグが「では、二つ目の質問ですが…」と続ける。
「その非人道的な実験を援助していたのは『エストレア家』ですか?」
「そうだが…お前、何者だ?」
「ただの手のかかる王子の親友ですよ」
リオの思わずといった質問に、イグがにっこりと笑って答える。
…手のかかる王子で悪かったな。
話題は先程の、アイセが理由は分からないが風の陣営に組している事を踏まえた上で、ここからどうやって戦線を元に戻すか若しくは押し返すかというものに移った所で、リオから一つの提案が出された。
「アフィルクの情報源を断つ?」
「ああ。これまでは余剰人員がなく、知っていても出来なかったが…」
地図に描かれているある領の一部に付けられた×印。それをじっと見据えてから、リオは顔を上げた。
「ヴィントたちのお陰で、漸く決行する事ができる」
「それは分かったが…印が付けてあるこの領はどこなんだ?」
「イシュカ領だ」
「!」
イシュカ?まさか…
思い至った考えを肯定するように、リオがこくりと頷く。
「察しの通り、アイセの母親──ミテラ・イシュカの生家がある領だ。そして、この屋敷の隠し部屋にはアフィルクの製造に関する資料がある」
その言葉に、俺たちは驚きに顔を見合わせた。
確かに、リオ程の男ならば早い段階でアフィルクの製造資料の在り処を見つけ出していても不思議ではない。ないが…
「リオ、一つ聞いても良いか?」
「何だ?」
「…何故、イシュカ家に隠し部屋があると知っているんだ?」
リオの配下の密偵が優秀である事は分かる。だからこの情報を掴んだのも密偵だと言われれば納得するだろう。
だが、先程リオは「知っていても出来なかった」と言った。
それはまるで、密偵からではなくリオ自身が最初から知っていたかのような口ぶりで。聞いた時、俺は僅かな違和感を覚えた。
「密偵からの情報だ…と言ってもヴィントには通用しないか…」
リオは困ったように苦笑すると、一つ息を吐き出してから「どこから話したものか」と口を開いた。
「まず、確認しておきたいのだが、ミテラ・イシュカについてどこまで知っている?」
「ソキウス・エストレアと駆け落ちした女性で、アイセたちの母親だという事だけだ」
「そうか。彼女の子どもが双子だった事も知っているのだな」
「彼女がどうかしたのか?」
「…彼女──ミテラ・イシュカには双子の妹がいた」
「!」
双子の、妹?
「その妹の名はヴァネッサ。彼女はミテラ程強い能力は有していなかったが、それなりに強い能力を見初められて今は亡き父──フェンニース・シュネーフリンガ侯に嫁いだ。…ここまで言えばもう分かるだろう?」
少しだけ口角を上げてそう言ったリオに、イグたちから動揺の声が上がる。
つまり、リオはアイセの…
「…アイセはこの事を知っているのか?」
「いや、知らないだろうな」
リオは肩をすくめて「従兄弟という関係はエストレア家とイシュカ家の人間しか知らないだろう」と言うと、少しだけ口角を上げた。
「あのー…じゃあ隠し部屋の事はヴァネッサ嬢からですか?」
おずおずと確認するようにそう質問したアズライトに、リオは「ああ」と首肯する。
「それと、亡くなる前に母が言っていた。イシュカ家には秘密があると」
「秘密?」
「…イシュカ家は代々薬の扱いに長けている一族で、最も薬の扱いが上手い男が当主の座に就いてきた。だが、イシュカの先代当主──つまりアイセの母方の祖父ナイジェルには双子の娘しか生まれなかった。だから仕方なく長女であるミテラに薬学の知識を学ばせ、妹である母は十五歳で嫁がされた」
リオ曰く、オラージュ王国の法では十五歳から成人と定められているらしい。
確かに成人になったと同時に結婚するのは貴族にとって別段珍しい事ではないが、姉のミテラ嬢にしか薬学の知識を学ばせなかった上に早々に嫁がせた所を聞くに、ナイジェルにとっての彼女の価値はミテラ嬢ほど高くはなかったのだろう。
「ミテラがどこまで薬学を学んでいたのかは知らないが、恐らくイシュカ家の秘密──『人工能力薬の実験』については知っていただろう」
人工、能力薬?
聞き慣れない言葉。だが、不穏な言葉に思わず眉を寄せる。
「言葉の通り、イシュカ家は代々裏で『人工的に能力者を生み出す薬』の開発と実験を無能力者を使って行っている」
「なっ…!」
「そんな事を…!?」
驚きに声を上げるアズライトとユアン。
それもそうだろう。アズライトには今回オラージュ王国を調べさせたがその情報が出て来なかった所をみるに相当厳重に隠されてきた事が窺える。
ユアンも医者であると同時に薬学を研究している者だ。まさかそんな非人道的な実験がされているなんて知って、さぞ驚いた事だろう。
「あの、二つほど質問しても良いでしょうか?」
「ああ」
それまで冷静に話を聞いていたイグがすっと小さく手を上げる。
「一つ目ですが…お話しから推測するに『アフィルク』はその実験とやらの副産物なのでは?」
「! 何故それを…」
リオは驚いたように目を見開いたが、直ぐに「そうだ」と頷いた。
すると、それを確認したイグが「では、二つ目の質問ですが…」と続ける。
「その非人道的な実験を援助していたのは『エストレア家』ですか?」
「そうだが…お前、何者だ?」
「ただの手のかかる王子の親友ですよ」
リオの思わずといった質問に、イグがにっこりと笑って答える。
…手のかかる王子で悪かったな。
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