炎のように

碧月 晶

文字の大きさ
上 下
483 / 485

475.秘密

しおりを挟む
リオとすっかり打ち解けた後、この状況を打破すべく話し合いを続けていた。

話題は先程の、アイセが理由は分からないが風の陣営に組している事を踏まえた上で、ここからどうやって戦線を元に戻すか若しくは押し返すかというものに移った所で、リオから一つの提案が出された。

「アフィルクの情報源を断つ?」
「ああ。これまでは余剰人員がなく、知っていても出来なかったが…」

地図に描かれているある領の一部に付けられた×印。それをじっと見据えてから、リオは顔を上げた。

「ヴィントたちのお陰で、漸く決行する事ができる」
「それは分かったが…印が付けてあるこの領はどこなんだ?」
「イシュカ領だ」
「!」

イシュカ?まさか…

思い至った考えを肯定するように、リオがこくりと頷く。

「察しの通り、アイセの母親──ミテラ・イシュカの生家がある領だ。そして、この屋敷の隠し部屋にはアフィルクの製造に関する資料がある」

その言葉に、俺たちは驚きに顔を見合わせた。

確かに、リオ程の男ならば早い段階でアフィルクの製造資料のを見つけ出していても不思議ではない。ないが…

「リオ、一つ聞いても良いか?」
「何だ?」
「…何故、イシュカ家に隠し部屋があると知っているんだ?」

リオの配下の密偵が優秀である事は分かる。だからこの情報を掴んだのも密偵だと言われれば納得するだろう。

だが、先程リオは「知っていても出来なかった」と言った。

それはまるで、密偵からではなくリオ自身が最初から知っていたかのような口ぶりで。聞いた時、俺は僅かな違和感を覚えた。

「密偵からの情報だ…と言ってもヴィントには通用しないか…」

リオは困ったように苦笑すると、一つ息を吐き出してから「どこから話したものか」と口を開いた。

「まず、確認しておきたいのだが、ミテラ・イシュカについてどこまで知っている?」
「ソキウス・エストレアと駆け落ちした女性で、アイセたちの母親だという事だけだ」
「そうか。彼女の子どもが双子だった事も知っているのだな」
「彼女がどうかしたのか?」
「…彼女──ミテラ・イシュカには双子の妹がいた」
「!」

双子の、妹?

「その妹の名はヴァネッサ。彼女はミテラ程強い能力は有していなかったが、それなりに強い能力を見初められて今は亡き父──フェンニース・シュネーフリンガ侯に嫁いだ。…ここまで言えばもう分かるだろう?」

少しだけ口角を上げてそう言ったリオに、イグたちから動揺の声が上がる。

つまり、リオはアイセの…

「…アイセはこの事を知っているのか?」
「いや、知らないだろうな」

リオは肩をすくめて「従兄弟というこの関係はエストレア家とイシュカ家の人間しか知らないだろう」と言うと、少しだけ口角を上げた。

「あのー…じゃあ隠し部屋の事はヴァネッサ嬢からですか?」

おずおずと確認するようにそう質問したアズライトに、リオは「ああ」と首肯する。

「それと、亡くなる前に母が言っていた。イシュカ家には秘密があると」
「秘密?」
「…イシュカ家は代々薬の扱いに長けている一族で、最も薬の扱いが上手い男が当主の座に就いてきた。だが、イシュカの先代当主──つまりアイセの母方の祖父ナイジェルには双子の娘しか生まれなかった。だから仕方なく長女であるミテラに薬学の知識を学ばせ、妹である母は十五歳で嫁がされた」

リオ曰く、オラージュ王国の法では十五歳から成人と定められているらしい。

確かに成人になったと同時に結婚するのは貴族にとって別段珍しい事ではないが、姉のミテラ嬢にしか薬学の知識を学ばせなかった上に早々に嫁がせた所を聞くに、ナイジェルにとっての彼女の価値はミテラ嬢ほど高くはなかったのだろう。

「ミテラがどこまで薬学を学んでいたのかは知らないが、恐らくイシュカ家の秘密──『人工能力薬の実験』については知っていただろう」

人工、能力薬?

聞き慣れない言葉。だが、不穏な言葉に思わず眉を寄せる。

「言葉の通り、イシュカ家は代々裏で『人工的に能力者を生み出す薬』の開発と実験を無能力者を使って行っている」
「なっ…!」
「そんな事を…!?」

驚きに声を上げるアズライトとユアン。

それもそうだろう。アズライトには今回オラージュ王国を調べさせたがその情報が出て来なかった所をみるに相当厳重に隠されてきた事が窺える。
ユアンも医者であると同時に薬学を研究している者だ。まさかそんな非人道的な実験がされているなんて知って、さぞ驚いた事だろう。

「あの、二つほど質問しても良いでしょうか?」
「ああ」

それまで冷静に話を聞いていたイグがすっと小さく手を上げる。

「一つ目ですが…お話しから推測するに『アフィルク』はその実験とやらの副産物なのでは?」
「! 何故それを…」

リオは驚いたように目を見開いたが、直ぐに「そうだ」と頷いた。

すると、それを確認したイグが「では、二つ目の質問ですが…」と続ける。

「その非人道的な実験を援助していたのは『エストレア家』ですか?」
「そうだが…お前、何者だ?」
「ただの手のかかる王子の親友ですよ」

リオの思わずといった質問に、イグがにっこりと笑って答える。

…手のかかる王子で悪かったな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男だけど女性Vtuberを演じていたら現実で、メス堕ちしてしまったお話

ボッチなお地蔵さん
BL
中村るいは、今勢いがあるVTuber事務所が2期生を募集しているというツイートを見てすぐに応募をする。無事、合格して気分が上がっている最中に送られてきた自分が使うアバターのイラストを見ると女性のアバターだった。自分は男なのに… 結局、その女性アバターでVTuberを始めるのだが、女性VTuberを演じていたら現実でも影響が出始めて…!?

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

【BL】齢1200の龍王と精を吸わないオタ淫魔

三崎こはく
BL
人間と魔族が共存する国ドラキス王国。その国の頂に立つは、世にも珍しいドラゴンの血を引く王。そしてその王の一番の友人は…本と魔法に目がないオタク淫魔(男)! 友人関係の2人が、もどかしいくらいにゆっくりと距離を縮めていくお話。 【第1章 緋糸たぐる御伽姫】「俺は縁談など御免!」王様のワガママにより2週間限りの婚約者を演じることとなったオタ淫魔ゼータ。王様の傍でにこにこ笑っているだけの簡単なお仕事かと思いきや、どうも無視できない陰謀が渦巻いている様子…? 【第2章 無垢と笑えよサイコパス】 監禁有、流血有のドキドキ新婚旅行編 【第3章 埋もれるほどの花びらを君に】 ほのぼの短編 【第4章 十字架、銀弾、濡羽のはおり】 ゼータの貞操を狙う危険な男、登場 【第5章 荒城の夜半に龍が啼く】 悪意の渦巻く隣国の城へ 【第6章 安らかに眠れ、恐ろしくも美しい緋色の龍よ】 貴方の骸を探して旅に出る 【第7章 はないちもんめ】 あなたが欲しい 【第8章 終章】 短編詰め合わせ ※表紙イラストは岡保佐優様に描いていただきました♪

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島
BL
◆社会人+ドシリアス+ヒューマンドラマなアラサー社会人同士のリアル現代ドラマ風BL(MensLove)  甘いハーフのような顔で社内1のナンバーワン営業の美形、佐藤甘冶(さとうかんじ/31)と、純国産和風塩顔の開発部に所属する汐見潮(しおみうしお/33)は同じ会社の異なる部署に在籍している。  ある時をきっかけに【佐藤=砂糖】と【汐見=塩】のコンビ名を頂き、仲の良い同僚として、親友として交流しているが、社内一の独身美形モテ男・佐藤は汐見に長く片想いをしていた。  しかし、その汐見が一昨年、結婚してしまう。  佐藤は断ち切れない想いを胸に秘めたまま、ただの同僚として汐見と一緒にいられる道を選んだが、その矢先、汐見の妻に絡んだとある事件が起きて…… ※諸々は『表紙+注意書き』をご覧ください<(_ _)>

僕がサポーターになった理由

弥生 桜香
BL
この世界には能力というものが存在する 生きている人全員に何らかの力がある 「光」「闇」「火」「水」「地」「木」「風」「雷」「氷」などの能力(ちから) でも、そんな能力にあふれる世界なのに僕ーー空野紫織(そらの しおり)は無属性だった だけど、僕には支えがあった そして、その支えによって、僕は彼を支えるサポーターを目指す 僕は弱い 弱いからこそ、ある力だけを駆使して僕は彼を支えたい だから、頑張ろうと思う…… って、えっ?何でこんな事になる訳???? ちょっと、どういう事っ! 嘘だろうっ! 幕開けは高校生入学か幼き頃か それとも前世か 僕自身も知らない、思いもよらない物語が始まった

まだ、言えない

怜虎
BL
学生×芸能系、ストーリーメインのソフトBL XXXXXXXXX あらすじ 高校3年、クラスでもグループが固まりつつある梅雨の時期。まだクラスに馴染みきれない人見知りの吉澤蛍(よしざわけい)と、クラスメイトの雨野秋良(あまのあきら)。 “TRAP” というアーティストがきっかけで仲良くなった彼の狙いは別にあった。 吉澤蛍を中心に、恋が、才能が動き出す。 「まだ、言えない」気持ちが交差する。 “全てを打ち明けられるのは、いつになるだろうか” 注1:本作品はBLに分類される作品です。苦手な方はご遠慮くださいm(_ _)m 注2:ソフトな表現、ストーリーメインです。苦手な方は⋯ (省略)

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

処理中です...