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466.頼む
しおりを挟む「それで、あなた方は一体『何を』聞きたいんですか?」
男の子の家から人気のない路地へと場所を移した俺たちは、青年の何かを確信したような薄青色の眼差しに射抜かれていた。
「失礼ながら、あなた方はもうこの国に何が起こったのか、今何が起きているのか、もうご存知なのではありませんか?」
「…そう思う根拠は?」
「あなた方は先程『旅の者』だと仰いました。今、サーヘイド公国を含む周辺国はどこも似たような状況下にあります。これは今や他国には既に知れ渡っている事。その証拠に、この国の貿易はもう以前の面影はありません。なのに、あなた方は『着いたばかりでこの国の情報を何も持っていない』と言いました。これをおかしいと思わずに何と思いますか?」
…なるほど
「そこまで分かっているのなら話は早い。確かにこの辺りの情勢について貴方から得られるものは無いだろう」
「…なら、一体どうしておれにこんな交換条件を持ち掛けたんですか?」
「そうでも言わないと、貴方は俺たちがあの親子に関わる事を良しとしなかっただろう?」
「!」
青年の表情が驚きのそれへと変わる。
「どういう事情かは知らないが、貴方はあの親子に何か恩があるんじゃないのか?」
「どうして…」
「分かるさ。貴方はあの少年の兄弟ではない事は勿論の事、最初に俺たちに会った時に見せた貴方の身のこなしは一般人のものではなかったからな。一見接点が無さそうだが、貴方は脚を負傷しているようだから、大方ケガをした貴方をあの親子が助けたんじゃないのか?」
「……そこまで分かっていたんですね。そうです、おれは流れ着いていたところをあの親子に助けられました。…ここまで言えば、もうおれの正体にも気付いているんでしょう?」
青年の薄青色の瞳。それはつまり水の能力者である事を意味している。この辺りで水の能力を持つ人間がいる国は限られる上に、トールと同じく上流から流れてきたという話と照らし合わせれば…
「…オラージュは今どういう状況なんだ?」
彼がオラージュ王国の人間であるという答えが導き出される。
「…その前に、おれからも聞きたい事があります」
青年は否定しなかった。それはつまり、俺の考えが正しいという事。
「あなた方は一体何者なんですか?この国へは何の目的で?」
青年の薄青色の瞳が俺たちを真っ直ぐに捉える。その瞳にはあの親子を助けた事による信頼と少ない情報で自分の正体を見破った俺への警戒心が入り混じっているようだった。
「…俺はヴィーチェル王国の王子だ」
「ヴァン!?」
突然正体を明かした俺を咎めるように呼んだイグを手で制す。ここは任せてくれと目配せすると、イグは渋々というように引き下がってくれた。何となく、この青年には話しても大丈夫な気がするのだ。
「…ヴィーチェル王国の、王子?」
信じられないものを見るような眼差しで目を見開く青年に、俺はフードを取って見せた。
「この国へはオラージュへの侵入の足掛かりとして来た」
「…それだけの人数で?」
「ああ」
「…無謀だとは思わなかったんですか?」
「思うな。だが、大切な人を取り戻すためならどんな無茶だってやってのけるさ」
「大切な、人?」
俺は青年に愛しい恋人の事を話した。すると、青年は不快そうに眉根を寄せて小さく呟いた。
「…あいつら、そんな事を…」
「え?」
あいつら?
まるで嫌悪しているかのような口ぶりに、俺は一つの疑問が浮かんだ。
「『あいつら』は君の仲間じゃないのか?」
「はあ!?」
そう言った途端、青年の眼が心外だというようにカッと見開かれた。
「あんな奴らが仲間?冗談じゃない!あいつらは──」
言い掛けて、青年がはっと口を閉ざす。その様子はまだ俺たちに話しても良いのか判断しかねているようだった。
だが、これで分かった。オラージュは一枚岩ではないらしい。察するに、青年が属している陣営は『あいつら』とは敵対してるようだ。
「そういえば、貴方の名は?」
「……セイルです」
名前を明かしてくれる程度には信用してくれたのか、それとも俺が名乗ったからなのかは分からないが、青年はそう名乗った。
「では、セイル殿。改めて頼みがある。俺たちを貴殿の仲間の元へ連れて行ってくれないか?」
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