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攫われてから三度の陽が昇った頃、船は漸くその動きを止めた。どこかに着いたらしい。
「さ、着きましたよ」
リヒタイールに連れられ、船から降りる。
見知らぬ船着場。辺りを見回すが積荷を下ろす船員たちばかりで、トールさんの姿がどこにも見えない。
「さて、ここからは陸路で行きますので」
「…彼は無事なんですか?」
「ええ。君が何かしない限りは、ね」
含みを持たせた言い方に、思わずリヒタイールを睨んでしまう。
だが、そんな俺の視線など気にしていないかのようにリヒタイールは相変わらず貼り付けたような笑みを絶やさず、俺を貴族が使うような馬車の中へと誘った。
やがて準備が整ったのか、馬車は動き始めた。
監視目的だろう。俺の向かいにはリヒタイールが座っている。
「…俺を拘束しなくて良いんですか」
「ええ。だって、君には無意味でしょう?」
「………」
確かに、縄だろうが鉄枷だろうが能力を使えば俺にとっては紙切れに等しいが…
「ああでも、君の首にはもう枷が付いているも同然ですよね」
暗にトールさんの事を言っているのだと分かった。
「…卑劣ですね」
「何とでも」
それ以降、俺たちの間に会話はなかった。
それから、二度ほど野営し、やっと辿り着いたその場所を見て、ドクンと心臓が嫌な音を立てた。
無意識に呼吸が、鼓動が早くなる。
蘇る記憶。
呼び起こされる痛み。
「ようこそ、エストレア家へ。いえ…ここはお帰りなさいと言うべきでしょうか?」
リヒタイールの声が遠く聞こえた。
「さ、着きましたよ」
リヒタイールに連れられ、船から降りる。
見知らぬ船着場。辺りを見回すが積荷を下ろす船員たちばかりで、トールさんの姿がどこにも見えない。
「さて、ここからは陸路で行きますので」
「…彼は無事なんですか?」
「ええ。君が何かしない限りは、ね」
含みを持たせた言い方に、思わずリヒタイールを睨んでしまう。
だが、そんな俺の視線など気にしていないかのようにリヒタイールは相変わらず貼り付けたような笑みを絶やさず、俺を貴族が使うような馬車の中へと誘った。
やがて準備が整ったのか、馬車は動き始めた。
監視目的だろう。俺の向かいにはリヒタイールが座っている。
「…俺を拘束しなくて良いんですか」
「ええ。だって、君には無意味でしょう?」
「………」
確かに、縄だろうが鉄枷だろうが能力を使えば俺にとっては紙切れに等しいが…
「ああでも、君の首にはもう枷が付いているも同然ですよね」
暗にトールさんの事を言っているのだと分かった。
「…卑劣ですね」
「何とでも」
それ以降、俺たちの間に会話はなかった。
それから、二度ほど野営し、やっと辿り着いたその場所を見て、ドクンと心臓が嫌な音を立てた。
無意識に呼吸が、鼓動が早くなる。
蘇る記憶。
呼び起こされる痛み。
「ようこそ、エストレア家へ。いえ…ここはお帰りなさいと言うべきでしょうか?」
リヒタイールの声が遠く聞こえた。
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