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426.宿す
しおりを挟む「いやね、大丈夫なのかなと思ってですね」
「はい?」
予想だにしていなかった台詞に思わず「何がだ」と聞き返すと、アズライトは俺の様子を窺うように口を開いた。
「…オレには親って奴がいないんでね。だからあんたの気持ち全部を汲む事はできない」
「……………」
アズライトがそう言った瞬間、彼が何を気にしていたのか漸く理解した。
「…何だ、そんな事気にしてたんですか」
背を向ける。俺は今、どんな顔をしているのだろうか。
「別に、いつかやるだろうと思ってましたし。寧ろやっと尻尾を出してくれて感謝してるくらいですよ」
皮肉たっぷりに吐き捨てる。可笑しくて、反吐が出そうだ。
「それにそろそろ目の上のたん瘤を排除したいと思っていたところで──」
「イグ」
「──…!」
突然、背後から伸びてきた手に視界を封じられる。
「本当にそれで良いならオレは何も言わないし、従うよ。…だから、」
密着する背中からアズライトの鼓動が伝わってきて、その時漸く自分のそれが乱れている事に気が付いた。
「オレにも分けてよ。独り占めなんて狡い事しないでさ」
落ち着いた声がするりと胸の中に溶けていく。
狡いのはどっちだ。前に二人の時は改まった口調は要らないと言った時は「なかなか癖がぬけなくて」とかほざいてた癖に。どの口が言ってるんだ。
「……アレを視たなら分かるだろ。あいつは本当に碌な人間じゃない。ヴァンの害にしかならない」
このまま放っておいたら汚物を垂れ流し続けるだろう。
「は、俺が知らないとでも思ってるんだろうな。本当に…どこまでもおめでたいよな」
「…そうだな」
そう答えた声があまりにもやさしくて、目隠しされていて良かったと思った。
だって
こんな嫌悪にまみれた眼を、見られずに済んだのだから。
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