炎のように

碧月 晶

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371.約束と言いたかった事

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「こうして触れたいと思うのも、…キスをしたいと思うのもお前だけだ」
「…っ」


親指で下唇をなぞられて、その感触にゾクゾクとした痺れが走った。


「お前の仕草一つ一つを目で追ってしまうようになって、時折見せてくれるようになった笑顔を見る度に
ここが甘く締め付けられて、暴れて
…お前が可愛いと、愛しいと思うようになった」


ここ、と言って俺の手を取って誘ったその場所は
服の上からでも分かる程激しく脈打っていた。

それはいつもヴァンと一緒にいる時の自分の鼓動と同じくらいの速さで

彼が言った事と並行するように頭の中で
今までの自分の行動とその時の感情が蘇ってきて


「だめ、なんです…俺は、俺は…っ」


彼に対するこの気持ちが何なのか、分かりそうになって

でもそれに気付いてしまったらもう後戻り出来なくなってしまうような気がして

落ち着かせようと、無意識に左眼に手をやる。


「え…」


すると、徐にその手を取られたかと思うと
突然左眼に掛かっていた髪に手が伸ばされた。


「! や…!」


反射的に避けようと身を引いたけれど、この体勢では大した距離も取れなくて

近付いてくる手に咄嗟に固く眼を閉じた瞬間、左眼に髪の上から柔らかい感触が乗せられた。




「…全部だからな」



恐る恐る目を開けて見れば、



「『これ』も含めて、全部、お前を愛してる」
「…!なん、で」


知って…


「お前が魘(うな)されていた時に、偶然な」









『この忌み子め』
『汚い』
『穢らわしい』








あの大人達の声が、聞こえる。







不安と絶望の波が一気に押し寄せてきて


息が苦しくなって


何もかもを浚(さら)っていくようなそれに


目の前が真っ暗になった。



でも、



「…気持…ち悪く…ない…の…?」 



こんな、こんな俺を知っても尚

全部、受け入れてくれるの?




「何故?」
「だって…あの人たちは…」
「あの人たち?」
「………!」


黙り込んで呑まれそうになるソレから
気を保とうと胸に爪を立ててしまっていた手の上に

不意に大きな手が重ねられた。



「お前が今までどんな事を言われてきたのか、俺は知らない。その辛さを分かると言うつもりもない」
「………」
「でも、これからはそんな思いはさせないと約束は出来る」
「やく…そく…?」
「ああ、約束する。お前を必ず幸せにする。だから、お前はここにいろ。俺の傍にいてくれ。…お前は、ここにいて良いんだよ」
「……っ!…あ、」



その言葉に、張り詰めていた何かが切れた音がした。









傷付けたくなかった。
壊したくなかった。



俺が離れれば、関わりを断てば

自分だけが犠牲になれば

誰も傷付けない


そう思っていた。



何かを大切にしたい気持ちも、守りたいという願いも


それはいつも俺の一方通行なものたち。



でも、見返りが欲しかった訳じゃない。

そんなもの有り得ないと、考えた事もなかった。




だけど、





俺が幸せを願うように、ヴァンもまたそれを他の誰でもない『俺』に望んでいてくれていた。






「…ゔ…ああっ…ご、めんなさいっ…ごめんなさい…!」





ずっと、謝りたかった。






酷い事言って、ごめんなさい。


自分の事しか考えてなくて、ごめんなさい。






どうしようもなく涙が溢れてきて


嗚咽混じりに謝罪する俺の言葉一つ一つに優しく頷きながら

頭を撫でてくれたヴァンの胸で、また訳も分からず泣きじゃくった。
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