炎のように

碧月 晶

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344.動悸の正体つい…に?

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目が覚めてから10日程経ったある日、ユアンさんの治療が始まった。

まだ接触に対する恐怖心が消えた訳じゃなかったけれど

大丈夫だと、何も怖い事はないからと

俺が治療を受けている間ずっと、俺の手はヴァンの温もりに包まれていた。


そうしていれば、あんなに他者への拒否を示していた反応は段々とその姿を消していった。


そこからの回復は速かった。

ほんの少し、ユアンさんの存在を受け入れただけでその力は絶大な効果を発揮した。

最初は皮膚表面にある小さな傷が、次に裂けていた肉が
みるみるうちに折れていた骨もくっついて

ほとんど全快したと言えるようになるまでに、そう日は掛からなかった。


治療が進むにつれて、食事もまともに摂れるようになった。

やっぱり見た事がない料理ばかりだったけれど、やっぱりどれも美味しくて温かかった。


順調に回復していく俺をヴァンとユアンさんを始め、時々様子を見にきてくれていたイグニートさんとアズライトさんにも「良かった」と言われた。


勿論、イグニートさんと二人だけになった時にアレをどうやって見つけたのだと聞いたのだけれど「知りたいですか?」と微笑で聞き返され、咄嗟に遠慮すると首を振った。

ちなみにその時に、俺が借りていた宿部屋は解約しておいたからと言われて、目が点になったのだが。





こういうのを至れり尽くせりと言うのだろうか。





…逆にここまでの事で一つ問題があるとすれば、ヴァンが俺にしてくる一つの行為だけだろうな。


漸く固形物を食べられるようになった頃から、一つまた一つと俺が食べられる物が増えていく度に

よく出来ました、偉いなと褒めてくるのだ。


子供扱いされている感は大いにあるが、まぁ頭を撫でられるくらいならと

それくらいで終わっていれば俺もこんなにも気を揉みはしなかっただろう。



では何が問題なのかって?





そっ、れはその…




その…おでことか頬に、キ、キス…をして、くる、のですよ…





撫でて褒めたついでに、流れるように落とされるそれ。




何なんだあれは?ヴァンの癖?この国の文化?

それとも『王子』という生き物はああいう気恥ずかしい事が自然に出来てしまうのか?




ただのスキンシップだと分かっていても

大袈裟なぐらい褒められて、キスを落とされて

その度に俺の心臓が暴れて、なかなかに落ち着く暇がなかった。


そんなヴァンの甲斐甲斐しい(?)世話もあってか、俺はどんどん回復していったけれど

不自然な動悸は増すばかりで


原因は何だろうって考えた末に、俺はとある一つの可能性にいきついた。



そんな事あり得るのかと思ったが、当てはまり過ぎている症状。




もしかするとこれは……



「どうしよう…エテル」

「ピィ?」




昔、何かで読んだ気がする。





何もしていないのに突然激しくなる動悸


いつもと違う不規則な脈拍







これは、もしかして…







「………不整脈、かな」
「…………………………ピ?」





若年性という奴だろうか。




栄養摂取はちゃんと行っていたはずなのだが…





確か、睡眠不足や過労などにもよって起こるとも書かれていた。






「エテルも気をつけてね?」
「ピ、ピィ…………」





優しい手付きでよしよしと背を撫でるアイセに
エテルは何とも言えない微妙な気持ちになったのだった。
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