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しおりを挟む「裕太郎さん!裕太郎さん!!」
初めて聞く、大きな声だった。
頭から血を流し倒れている男の傍で、必死に呼び掛け続ける雨月の姿が、ふとあの時の自分と重なる。
目を閉じて動かない母親。次第に弱くなっていく腕の力。
何度呼びかけても反応してくれなくて、必死に手を握っていた。
「みかど…?」
弱々しい声にはっと我に返る。
目の前には未だぐったりとして動く気配のない男が横たわっている。
…しっかりしろ、オレ!
スマートフォンを取り出し、119と打ち込む。
そうだ。もうどうしていいか分からなかったあの頃のオレではない。
「救急車をお願いします。男性が轢かれて…はい、はい…場所は───」
通話を切り、男の傍に駆け寄って状態を確認する。
…息は…まだある。だが、頭を打っている以上下手に動かさない方が良いだろう。
「なんで…」
「話は後だ」
お互いに聞きたい事は山ほどあるだろう。だが、今はこの男の事が最優先だ。
間もなくやってきた救急車に、雨月を伴い乗り込んだ。
*****
結論から言えば、男は一命はとりとめた。…が、意識が戻るかどうかは分からないらしい。
「………」
椅子に座り、放心したように項垂れる雨月に、何と声を掛けたらいいものか迷う。
そして、それと同時にオレの前では決して見せなかったこんな弱った姿を、あの男のためになら見せるのかと、嫉妬に似たような感情に苛まれた。
先程の取り乱しようを見れば分かる。あの男は恐らく雨月にとってそれ程大切な人なのだろう。
「…あー、雨月」
「………何ですか」
俯いたままとはいえ返事があった事に驚いたが、そのまま続ける。
「はっきり言って根拠はねえ。ねえが……その、きっと大丈夫だ」
「え…」
雨月がやっと顔を上げる。泣き腫らしたのか、目が赤い。
「お前の大事な奴なんだろ。なら信じろ」
「三門…」
口にしてしまってから柄でもない事を言ったと後悔する。けれど、この状態の雨月を置いてこの場から去る事も出来なかった。
「………そう、ですよね。おれが信じないとですよね」
雨月がふらりと立ち上がり、こちらへと向き合う。
「先ほどは助けて頂いて、ありがとうございました」
そう言って、雨月はぺこりと頭を下げた。
「恥ずかしい話、あの時頭が真っ白になってしまって…貴方がいなければ伯父は助かっていなかったでしょう。改めて、お礼を言わせて下さい」
「別にオレは───」
────ん?
「…伯父?いま『伯父』って言ったか?」
「? はい。裕太郎さんはおれの伯父です」
「………」
「それがどうかしたんですか?」
…どうしたもこうしたも
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「…紛らわしいんだよ」
「え?」
「何でもねえよ」
「わ…っ」
勘違いさせられた意趣返しにぐしゃぐしゃと雨月の髪を乱す。
「???」
突然のオレの暴挙に目を瞬かせ、それまで以上に訳が分からなさそうに首を傾げる雨月に思わず笑ってしまった。
そんなオレを、やっぱり雨月は不思議そうな顔で見ていた。
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