終の九生

碧月 晶

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道の端いっぱいに広がる水溜まり。
その中心に立つ若い男。
その手に力無くぶら下がる四本足の小さな体。

ポタリ、ポタリと水滴が落ちる度に、足元の水溜まりに波紋が広がっていく。


目の前に広がる光景に、俺は頭が真っ白になった。


「あれぇ?まだいたんだ。おっかしいなぁ…なんで気付かなかったんだろう。…まあいいか。こんばんは、おにーさん?」


猫を手にした反対の手をひらひらと振って、男はこちらに身体を向けた。


「今夜はツイてるな~。もう一人殺せるなんて」


闇夜に浮かぶ、まるで鮮血のような真っ赤な瞳が細く不気味に歪められる。


「う…わああああ!」


全身に走る恐怖を脳が感知するよりも早く、一目散に走り出す。

早く。早く逃げなければ。
頭の中を瞬時に浮かんだ『死』という文字が埋め尽くす。


「あは、鬼ごっこぉ?いいよー」
「…っ!」


どくどくと嫌な音を立てる心臓の音がやけに耳に響く。
いつもより速く荒い自分の呼吸音でさえ恐怖を煽る材料になる。

背後の得体の知れない存在に、すくんでしまいそうになる脚を必死に動かして走った。



…けれど、ふととある違和感に気が付いた。

さっきから景色が全く変わっていない。

自分は少しでも人が多い通りに出ようとしていたはずなのに、何度角を曲がってもまた閑静な住宅街が現れる。

漸く周りがみえてくるようになった頭が、このおかしな状況に気付き始める。


どんなに助けを求めて叫んでも、どうして誰も気付かない?
どうしてどの家にも明かりがついていない?


そして、見上げた月を見て、俺の動きは止まった。




───月が、赤い。




蒼白い光を放っていたはずのそれは真っ赤に染まっていて、不自然なまでに大きく浮かんでいた。
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