絶食系令嬢と草食令息

もふりす

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第一章 ぶつかり合う感情

お茶会⑤ 魔術師の勧誘

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ウェンディとはその後、友達になってもらいましたわ。子リスのような彼女に甘えられて悪い気はしなかったとだけ言っておくわ。

お次は、フォーカス・イオフィエル。

魔力量が多く、魔術師たちから秘蔵っ子と評されるほど見込みのある方。彼自身は爵位がなく、公爵家で執事見習いとして働いていた。
彼はきな臭い事に巻き込まれそうになり、宮廷魔術師が暮らす魔術研究所のある寮に移り住んでいる。まあ、そこは追々説明するとして。

彼は宮廷魔術師の長である師団長ジークムント・イオフィエル様の所に養子として迎えられ、この場にも強制参加させられている。
今も、端の椅子に座り込んで甘い物を口に運んでいる。
美しい容姿にお近づきになりたい人は多そうだけど、誰もが遠巻きに彼を見ている。

あいにくだけど、私は待たないわよ?

「ご一緒しても構いませんか?」
「!・・・――コホコホッ」

ちょうど齧り付いていたタルトを詰まらせてしまったようで、背中を擦って差し上げた。言い忘れていたけど、彼も私と同じくこれから学園に入学しますが、年上です。諸事情もあるから仕方ない。

「申し訳ございません。手を煩わせてしまいましたね。」
「いえ、私も配慮が足りませんでしたわ。」

改めてと思い立ち上がり、カーテシーで挨拶をした。

「お初お目にかかります。キュランダ侯爵が娘ナーロレイ・キュランダと申します。以後お見知りおきを。」
「……」

反応がないからどうしたものかと思い顔を上げたら、口元を手で覆い困った顔をしていらしたわ。この反応を以前どこかで・・・いつ?
イオフィエル殿の様子を凝視していたら、彼も挨拶してきました。

「キュランダ嬢、私はフォーカス・・・と申します。貴女様はご存知かと思いますが家名は伏せさせてください。このような場ですので」
「!そうですわね。」

名を呼ばなくてよかった。もしかしたら避けられたかもしれませんもの。
そこで何を思ったのか、私の手を引いてまた『ルピナス・クレイ』を後にした。
訳アリの方はここで話せないのね。・・・覚えておこう。

彼が立ち止まったのは人気のない所で、私に向き直ると頭を下げてきた。

「私はどこにも属す事はできません!勧誘は諦めて下さい!」

今日初めて私の目的を見抜かれてしまった。
――いや?彼も勘違いしてる?

「イオフィエル殿、顔を上げてください」
「はい・・・」
「私は何も貴方を派閥に勧誘しているわけではありませんのよ?」
「――では、何故?」

声を掛けたのですか、と彼の目が訴えかけてくる。
彼は、彼を渦巻く環境下で警戒心が強くなったのだろう。こちらに向けられる瞳に心が痛む。

「これはあくまで提案ですので断っていただいて構いませんわ」

と前置きを置いて話し始めた。

「私は貴方と、魔法実戦の経験があるイオフィエル殿と一戦交えてみたいのです。お嫌でしたら仕方ありませんが、師団長様を通して他の方に当たってみますわ」

全く予想していなかったのか、キツネに抓まれた顔をしてらっしゃるわ。
イオフィエル殿が適任だけど、断られたら定期的にコロシアムに参加するしかないわね。家庭教師も限界なのか動きについてこれないみたいだし。

「何故私なのですか?」
「…やはり分かりませんよね…――」

彼の目を見るだけで当たり前の疑問を投げられている気がする。何故令嬢なのに、何故野蛮な私に、何故わざわざ許可を取るんだろう、と。

「敢えて言うなら、三つは理由がありますわ。
一つはそのずば抜けた魔術に関するスペック。魔力量が多く、器用にコントロールできて、稀な雷魔法の威力が凄まじい。二つ目はあの師団長様を師匠に持ち鍛え上げられた身体能力。元々素質があったのでしょうけど、師団長様を満足させられる人材なんてそうはいないわ。そして三つ目は・・・、ふふ」
「三つ目は・・・何です?」
「貴方ならアイデンティティともいえる魔術で手を抜くことはないでしょう。例え女の私が相手でも」

彼は困ったように眉を下げ、正直に答えてくれた。

「そう…ですね。私は魔術の事となると白熱して手を抜けませんから。でも、」
「――手を抜いたら、承知しないから」

私が言わんとすることを察して、差し伸べた手を握ってくれた。
私は本気で向き合ってくれる人が欲しいの。
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